乳科学 マルド博士のミルク語り

チーズとパン

2017年9月21日掲載

来る10月21日(土)には大崎ブライトコアにて「チーズパン博」が行われます。チーズとパンはワインとともに西アジアで発祥し、世界中に広まったと考えられています。同じ地域で発祥したこれらは非常に相性がよい組み合わせです。チーズとパンの相性については、「チーズ入門 改訂4版」(日本農業新聞社、2017年4月11日発行)に詳しく書いてありますので、ご興味のある方はお読みください。

さて、パンは糖質含量が高く、白米とともに「高GI値食品」です。GI値とは摂取後120分までの血糖値の変化曲線の面積を求め、基準食の面積と比較して、高GIとか低GIとか言います(図参照)。食品を摂取すると、食品中の糖質が腸内でグルコースに分解され、血液中に入ります。すると、血液中のグルコース濃度(血糖値)が高くなります。高い血糖値が続くと、体内の細胞に様々な障害を及ぼします。そのため、膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、グルコースをグリコーゲン(グルコースが多数重合したもの)に変えて筋肉に蓄積します。グリコーゲンは運動などに必要なエネルギーとして利用されます。しかし、グリコーゲンとして蓄積される量は少なく、筋肉に蓄積しきれなかったグルコースは脂肪細胞に脂肪として蓄えられます。なので、糖質の食べ過ぎは肥満の原因になるのです(2017年2月 C.P.A.コラム ダイエットの図2参照)。インスリンの分泌が少ない人やインスリンの働きが悪い人では、血糖値が高い状態が続きます。これがⅡ型糖尿病であり、日本人に多い疾病です。
一方、低GI値食品は、糖質を含む食品を食べても、血糖値の上昇がゆるやかです。このため、脂肪細胞に蓄積されるグルコースが少なく、肥満になりにくいのです。そして、牛乳・乳製品は代表的な低GI値食品なのです。今年の認定試験にも出題されましたので、皆様もよくご存知かと思います。

チーズを含む牛乳・乳製品が低GI値食品なのは、牛乳中に含まれる乳糖は分解されにくく、吸収されにくいためです。チーズではホエイを除く際に乳糖も除かれるので、乳糖含量は低くなっています。しかし、それだけではないと考えられるようになってきました。それは、高GI値食品であるパンや白米をチーズや乳製品とともに摂取すると血糖値の上昇が緩和されるからです。これはチーズに乳糖が少ないという理由だけでは説明がつきません。最近の研究によれば、乳たんぱく質に含まれるロイシン、バリン、イソロイシン(これらを分岐鎖アミノ酸、BCAAといい、運動後の筋肉増強に関与)、ならびにリジンの4種類のアミノ酸がすばやく吸収され、血糖値の上昇抑制に働くことが分かってきました(Nilsson et al., Am. J. Clin. Nutr. 80: 1246-1256, 2004)。さらに、8月26日に開催されたJ-Milkの「平成29年度乳の学術連合研究報告会」にて、千葉大学の坂根先生より乳脂肪に特に多いミリスチン酸という脂肪酸がⅡ型糖尿尿のリスクを低減させる可能性が高いという大変興味深い発表をされました。
 

このように、チーズとパンは単に相性がよいだけではなく、パンを食べた際に上がる血糖値を上がりにくくし、その結果太りにくくする効果もあるのです。白米と乳製品の組み合わせも然りで、「乳和食」は塩分摂取を減少させるだけではなく、血糖値の急激な上昇を緩和する効果もあります。チーズとワインの組み合わせについては2017年7月のC.P.A.コラム(フレンチパラドックス)に記載いたしました。つまり、チーズ、パン、ワインの組み合わせは相性抜群なのですが、健康面においてもチョレイ!なのです。
お分かりになりましたか?分かった方は大崎にて、にんまりとほくそ笑んでください。分かりにくかった方も大崎にて、なーるほどとほくそ笑んでください。では、大崎にてお待ちしています。
 

このコラムを書き上げたら、C.P.A.通信 Vol94(8月号)に井越先生が「血糖値の管理」と題する記事をお書きになっていました。本コラムと一部内容が被ってしまいましたが、C.P.A.通信と合わせてお読みください。