Instagram  Instagram

English

乳科学 マルド博士のミルク語り

Jチーズスターター

2026年4月20日掲載

国産チーズのレベルは年々向上し、昨年も World Cheese Awards や World Championship Cheese Contest など世界的なコンクールにて多くの国産チーズが受賞したことは皆様もご存じの通りです。しかし、「国産」といっても、原材料のうち国産なのは乳と塩くらいで、多くの工房ではスターターやレンネットは海外からの輸入品を使っているのが現実です。

スターターについては、ホエイやヨーグルトをスターターとして添加している場合や、日本で昔から食されている発酵食品から分離した乳酸菌を添加しているものもあります。しかし、このようなやり方はリスクも考えられます。ホエイやヨーグルトをスターターとして乳に添加することは、無殺菌の培地に乳酸菌を接種して培養することと同じなので、微生物の専門家はとんでもない行為と思うかもしれません(私は微生物については素人ですが)。環境中の雑菌も培養していることと同じで、雑菌中には健康に悪影響を与えかねない菌がコンタミしているリスクがあります。
また伝統的発酵食品から分離した菌は、食経験があることから安全と考えられていますが、その発酵食品、例えば漬物としての食経験はありますが、乳に利用した場合も安全とは限りません。その菌の遺伝子中に健康被害をもたらす成分の遺伝子が含まれている場合、何らかの条件下で発現しないとは限りません。実際、ある種のカビは培養条件によってはカビ毒を発現する場合が知られています。なので、遺伝子解析を行い、カビ毒の遺伝子が含まれていないことを確認する必要があります。

そこで、農研機構を中心にいくつかの研究機関が協力して、北海道の食品から分離した532菌株と栃木県の食品から分離した144菌株から選抜し、安全性や菌の性質を調べ開発された乳酸菌4菌株(表)が 「Jチーズスターター」 です(「畜産の情報」8月 2025)。これらの菌の性質については農研機構のカタログに示されていますので興味ある方は参照してください(国立研究開発法人農業・食料産業技術総合研究機構「Jチー ズ乳酸菌カタログ」 )

通常チーズ用スターターは、酸を生成してpHを下げる役割の乳酸菌と pHが下がった後にたんぱく質を分解することによりペプチドやアミノ酸を生成させる乳酸菌から構成されています。「Jチーズスターター」は主に後者の働きに関与する乳酸菌(アジャンクトスターター)です。これらJスターターを用いたチーズの試作を行い、チーズ作りに適した菌を絞り込みました。さらに、いくつかのチーズ工房に依頼して試作を繰り返しました。その結果、概ねJチーズスターターは好評で、中には非常に高い評価をした工房もあったということです。これらJチーズスターターは日本乳業技術協会から販売されます。

さて、せっかく開発したJチーズスターターですので、国内のチーズおよび発酵乳製品の多くに本スターターを使用してもらいたいものです。そのためには、まずスターターの価格が輸入品より安価、もしくは高くても同程度でなければなりません。しかし、各地の工房がそれぞれ異なるチーズを異なるJチーズスターターで作ってもそれぞれのスターターの使用量は高がしれています。そこで、いくつかの工房で同じJチーズスターターを用いたチーズを例えば「Jゴーダ」と称して製造販売してはどうでしょうか。十勝ラクレットは参考にできます。あるいは、大手メーカーがこのスターターを使ったチーズを発売することも考えられます。
さらに、これまでのスターターとは異なるJチーズスターターならではのメリットを訴求すべきです。組織や風味がよい、熟成期間が短縮される、などです。また、メインスターターとの相性も大事です。発酵バターに利用する研究も行われています。
今後、さらに研究開発が進展し、Jチーズスターターの用途が広がり、国産のスターターとして広く利用されることが期待されます。