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ダンチェッカーの草食叢書

第35回 考古学からチーズの未来を思う

2026年2月10日掲載

皆さんは「考古学」というと、どのようなイメージを持つでしょうか。日本の学校教育での「歴史」は先史時代からスタートするので、われわれは考古学の領域に早くからなじんでいます(ヨーロッパでは、歴史学習はローマ時代から始めることが多いそうです)。貝塚や古墳などが身近にあって一般にも人気があり、熱心な研究者も多いので、日本と世界の考古学研究に関する書籍がたくさん出ています。その中には、牧畜や乳に関するものもあります。

『ムギとヒツジの考古学 世界の考古学⑯』藤井純夫著 同成社 2001

『ムギとヒツジの考古学』

この「世界の考古学」シリーズは、第1期は地域ごとに、第2期は象徴的な事項をテーマにして企画された、専門的な内容をわかりやすく解説したシリーズです。
藤井純夫先生(金沢大学)は西アジア考古学が専門で、沙漠地帯で先史遊牧民遺跡の発掘をされている研究者です。『ムギとヒツジの考古学』では、西アジアの旧石器時代から土器のある新石器時代まで順を追っていきます。ムギ作農耕の開始、ヤギやヒツジの家畜化、それらの拡散、そして乳の利用や遊牧的な適応などを追跡していきます。発掘された遺物や遺構から当時の生活を理解していくことがとてもドラマチックです。
合間のコラムで、農耕と牧畜の起原についての研究史が紹介され、代表的な研究がダイジェストされているので入門者にはありがたいところです。

『家畜の考古学 古代アジアの東西交流』菊地大樹・丸山真史編 雄山閣 2022

『家畜の考古学』

遺跡から出た動物由来の遺物を研究する「動物考古学」を中心に、家畜動物の関係から人びとの生活を考えていく編著本です。
1章は日本に伝わった家畜文化、2章は西アジアでの家畜の始まりと伝播を考察します。副題にあるように、アジアについて家畜の伝播が語られていきます。3章の「家畜をめぐる新視点」で村松弘一先生(淑徳大学)は、人類が動物を家畜化してコントロールしてきたと見えるが、実は環境変化によってウマやウシが人間の歴史を動かしてきた、と述べています。これはヨーロッパにも当てはまることでしょう。そして、平田昌弘先生(帯広畜産大学)が搾乳の開始の意義とその研究史をていねいに解説しています。

『ミルクの考古学 市民の考古学⑲』庄田慎矢著 同成社 2024

『ミルクの考古学』

同成社は考古学や歴史学を得意としている出版社です。この「市民の考古学」は、「世界の考古学」の姿勢を引き継いでさらに広範なテーマで展開しているシリーズです。
庄田慎矢先生(奈良文化財研究所)は、考古生化学の分野でさまざまな実績をあげておられます。遺物に残存する生体分子を分析することで当時の生活がわかるのです。
ここではその研究手法やミルクに関する研究成果が紹介されています。DNAだけでなく土器や歯石などに残る脂質やタンパク質から、乳製品加工の技術まで推定できるといいます。それによる世界各地の家畜や乳利用の伝播、乳糖耐性の獲得などの研究は、とても興味深いものです。

これからも技術は進み、いろいろなことがわかってくることでしょう。各地の伝統的な産品は自然環境や社会環境とともに変化してきましたし、現在も大きな変化の只中にいます。考古学を通じて祖先の暮らしを思うことは、きっと人類の将来を考えることにつながるはずです。