今年もCheese Fun! Fan! Fun! にはレベルの高いチーズが多数出展され、訪れた方々に楽しんでいただきました。チーズがここまでレベルアップしたのはどのような経緯があったのでしょうか?
そもそも、人類が乳を利用し始めたのは約1万年前、西アジアの乾燥地帯だと考えられています(平田昌弘、「人とミルクの一万年」、岩波ジュニア新書、2014)。そして1万年の間に世界に伝播し、気候風土、人種、宗教、食文化、政治・経済など様々な要因で、様々な酪農形態や乳製品が生れました。それらの発展段階を研究し、科学的に謎を解き明かすのが酪農乳業史です。
「温故知新」とは昔のことを学び、新しいことを知るという意味であることは皆様もよくご存じかと思います。すなわち、例えば乳酸菌の存在を知らなかった時代、何故乳が固まるのか、何故時間と共にカードの性質が変化していくのか、など分からないまま試行錯誤しながらチーズを作りました。乳酸菌の存在を知り、その役割が分かってくるにつれて安全で、よりおいしいチーズをより効率的に作れるようになりました。そして、現在も全国のチーズ製造者は日々様々な創意工夫をこらしており、後世に伝えられるのです。
日本で酪農乳業史研究会が発足したのは2008(平成20)年のことで、日本大学の先生方が中心となりました。これ以前から日本産業史学会がありますが、主な研究対象は夫々の時代の主要産業であった綿糸紡績業・鉱山業、鉄鋼業、石油精製業・化学繊維工業、電機・自動車工業などで、酪農乳業をメインターゲットにした研究会はありませんでした。私が入会したのは前会長であった矢澤好幸先生(現、顧問)や故和仁皓明先生から誘われたためです。しかし、私は歴史には興味がありましたが、古い資料を読みこなすために必要な古文や漢文の素養が苦手で成績も思わしくなかったのです。また、古書は筆で書かれており私は読むことができません。ですが、古書を翻刻(活字体で印刷)したものや現代文で解説したものがあるので心配しなくても大丈夫と言われ、取り組んでみることにしたのです。
会員は大学の研究者、酪農政策の立案に関わった農水省OB、乳業メーカーの方、C.P.A.の会員、ミルク一万年の会に参加されている方々、そして郷土史を独自に研究されている方などです。会員数約80名のこぢんまりとした研究会ですが、毎年総会と併せてシンポジウムを開催する他、特定のテーマについてミニシンポジウムを開催する年もあります。さらに、査読付きの会報も発行し、研究の成果を投稿できる学会誌も発行しています。
今回、C.P.A.コラムに酪農乳業史研究会のことを何故取り上げたのかというと、第一に会員が高齢化しており、今後研究会の活動が先細る可能性があるためです。最近酪農乳業史に関心がある若い方々も少しずつ増えていますがまだまだです。研究分野はこれまでは明治~昭和50年位までの日本における酪農乳業の発展や酪農政策の裏話が多かったのですが、海外の酪農乳業や江戸時代やそれ以前の酪農乳業に関するものも守備範囲です。
なお、「酪農乳業史研究 21号、2024年9月」には和仁先生の遺稿となった「近代日本酪農乳業」産業の足跡と今後の展望」が掲載されています。酪農乳業界隈の方々には是非一読されて、突きつけられた課題にどう対応するか考えていただきたいと思います。ご関心のある方は是非入会してください。入会手続きや過去の取組は酪農乳業史研究会のホームページを参照してください。
「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。
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