紅麹サプリの食中毒事件を契機に、機能性表示食品の安全性確保に関する対策が検討されています。機能性表示食品を巡る検討会報告書(https://www.caa.go.jp/notice/other/caution_001/review_meeting_001/assets/consumer_safety_cms206_240527_01.pdf)(2024年5月27日)によれば、タブレットなどの機能性表示食品はGMP(Good Manufacturing Practice)に基づいた製造が義務化されます。さらに、健康被害が発生した場合、原因が摂取した機能性表示サプリであってもなくても報告義務が発生します。チーズ界の方たちにGMPと言えば、レンネットでκ-カゼインから切断されるペプチドを想起しますが、混同するので私はκ-カゼインのペプチドをCMP(casein macro peptide)と呼ぶことにしています。
GMPは製造施設、製造機器、運転条件、包装、検査、輸送など製造の流れについて、方法や品質管理などを記載した書面を作成し、承認を得て製造しなければなりません。なので、より効率が高い製造機器や検査機器に切り替えようと考えても、許可をとった方法と同等であるというデータを付して再度届けなければなりません。
また、健康被害の把握はメーカーにお客様から直接、あるいは販売店や病院から連絡があり、それらを保健所などに報告しなければなりません。
これらの対応は医薬品における対応とほぼ同じです。すなわち、機能性表示のサプリは医薬品とほぼ同じ作業が必要で、一般的な企業や小規模生産者にとって高い障壁になると思います。さらに、機能性表示食品では医薬品として認められている成分を配合できませんし、医薬品的な表示もできません。
どうしてこんなやっかいなことになるのでしょうか。食品にはおいしさ、栄養、健康機能の3機能があります。そのうちの健康機能については、医薬品との混同を避けるために許可制が導入されました。これがいわゆるトクホです。医薬品と同じく「関与成分」を定め、その機能性を臨床試験で検証し許可することにしました。しかし、健常人を対象にする食品の健康機能とは「関与成分」云々ではなく、一般的に食される食品(生、調理や加工)を習慣的に食べれば、健康を維持できるということです。なので、食品としての、例えば牛乳、卵、豆腐、茶、・・・を普通に食べていれば高血圧の方が少ない、虫歯が少ない、・・・などの健康効果を何千人~何万人もの方を対象にした臨床検査(あるいはメタ解析)結果を調べ、逆に例えば砂糖は何g以上毎日食べると血糖値が上がるなどを調べ、ホームページなどで消費者に伝えることが大事なのではないでしょうか。図に示すように、未病の方を対象にしたトクホや機能性表示食品も大事ですが、同時に健常な方が未病や病気にならないような情報がより重要と考えます。
何故、食品の健康機能追及への入り口を間違えてしまったのでしょうか。第一に、医薬品寄りの研究の方が国の研究費(いわゆる科研費)をもらいやすかったこと、第二に医薬品寄りの研究を行う方が学生の人気が高かったこと、第三に企業も人材を集めやすかったことなどが影響していると考えられ、世の中の流れに従ったためと考えられます。しかし、制度の見直し機運が高まってきたこの機会にもう一度原点に立ち返って考えてみてはいかがでしょうか。
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