乳科学 マルド博士のミルク語り

牛乳廃棄とチーズ

2023年1月20日掲載

最近、牛乳の大量廃棄リスクについてマスコミなどでも大きく取り上げられています。通常、余乳が発生すると、乳業メーカーはバターと脱脂粉乳(脱粉)に加工して保管します。保管されたバターや脱粉は家庭用や業務用商品に利用されます。しかし、処理能力を超えた余乳が発生すると牛乳廃棄のリスクが深刻な問題となることは皆様もよくご存じのとおりです。
牛乳消費が落ち込んだ理由は第一に価格高騰です。これは円安や気候変動に加えてウクライナ紛争(もはや戦争と呼ぶべきか?)により飼料作物の価格が高騰し、日本は安価で安全な飼料を買い付けることが極めて困難となっています。さらに、コロナによって学級閉鎖や休校により学乳消費が大きく低下したり、飲食店での消費が落ち込んだり、インバウンドが激減したり・・・などが原因となっています。

一方、チーズの消費は近年伸びていますが、海外チーズの価格が上がり、それに伴って日本のプロセスチーズの価格も値上がりしています。輸入チーズ価格が高騰し、国内の牛乳が大幅に余るのであれば国産チーズ増産のチャンスと考える方が多いかと思います。しかし、チーズを製造すれば、大量のホエイが副生されます。乳業メーカーではホエイを噴霧乾燥して保管するのですが、処理能力を超えてしまう可能性があります。また、ホエイの風味は作るチーズによって異なります。日々作るチーズの種類や量が異なると、出てくるホエイも様々な風味を呈することになり、安定した風味のホエイ粉末を作ることが難しくなります(本コラム2018年6月20日参照)。乳業メーカーが共同運用するホエイ処理工場を北海道に設立し、チーズ工場に生乳を輸送したタンクローリーが帰りにホエイを積んで処理工場に運ぶ、なんてできないのでしょうか?

しかし、やはり牛乳の消費を伸ばす工夫が必要です。一部の方は科学的根拠のない情報やフェイクニュースを信じ込み酪農や牛乳に対する負のイメージを持ち、牛乳を飲まないことが健康的で、地球温暖化も防ぐことになると考えています。多くの消費者は必ずしも負のイメージは抱いていないものの、負のイメージを完全には払しょくしきれないというのが実情ではないでしょうか。それ故に、植物性ミルクや植物油を用いたチーズ代用品が話題となり、市場で伸びています。

植物性ミルクについては2021年11月20日の本コラムにて簡単に説明しました。植物油脂を用いたチーズ代用品は最近ではスーパーにも並んでいます。写真はその一つですが、植物油脂、でんぷん、ホエイパウダー、ナチュラルチーズ、デキストリン、食塩、増粘剤(加工デンプン)、pH調整剤、セルロース、カロテノイド色素が原材料となっています。勿論チーズではなく「乳等を主要原料とする食品」(いわゆる乳主原)です。写真はシュレッドタイプですが、単独で食べてみると美味しくないです。しかし、ピザにトッピングするとそこそこ食べることができます。”コレステロール95%カット”を訴求していますが、最新の食事摂取基準ではコレステロールの摂取基準は削除されています。何故かというと、コレステロールの70~80%は体内で合成されるので食事からの摂取を控えてもあまり意味がないうえに、食事から摂取されるコレステロールは特に悪影響を及ぼすことはないためです。また、動物性脂肪=悪というイメージを持っている方は少なくないようですが、乳脂肪=悪という科学的根拠は全くありませんhttps://www.j-milk.jp/knowledge/food-safety/uwasa33.html

C.P.A.の会員の間でもどうしたらいいのかわからないという方が多いと思います。現在、農水省では「牛乳でスマイルプロジェクト」という取り組みが始まっています。各地の取組を参考にしながら、C.P.A.に集う私たちは正しい情報を発信し、牛乳の大量廃棄リスクを乗り越えようではありませんか。

 


「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。

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