ダンチェッカーの草食叢書

第5回 松平博雄先生『チーズ 魅力のすべて』

2021年2月10日掲載

毎年日本のチーズ消費量は伸びており、多様なナチュラルチーズが食べられています。しかし、戦後に海外からチーズが輸入され始めた頃は一般にチーズは知られておらず、販売にはたいへんな苦労があったことでしょう。
松平博雄先生は、輸入チーズ販売の先駆けとなった方です。チーズ専門商社であるチェスコ株式会社を創業(1957年)した方なのですがそれだけではなく、記憶されるべきは多方面にチーズの魅力を啓発しつつ業界を作り上げたということだと思います。1990年代に「チーズ&ワインアカデミー東京」「日本輸入チーズ普及協会」「フランスチーズ鑑評騎士の会」などを創設されました。

『チーズ 魅力のすべて』

著書は意外に少なく、単著としては『チーズ 魅力のすべて』(チーズ&ワインアカデミー東京 1993)が残されているのみです(「松平博雄 著」なのですが、6章「チーズはワインのよき伴侶」は村山重信さんが担当されています)。
チーズの専門書が少なかった当時、訪ね歩かれたヨーロッパの生産地の写真がとても魅力的でした。
今読むと、もちろん情報としては古くて誤りもあるのですが、当時の製造の様子などはとても貴重な資料となっていると思います。

この頃、1980年代後半から90年代にかけて、チーズに関する雑誌やムック、事典形式の本などが毎年のように出版され、松平先生が関わったものも多く見られました。

『チーズ百科』
(暮らしの設計No.197)

その初期のもので忘れられないのが、『チーズ百科 チーズの知識/おいしい料理とお菓子』(暮らしの設計No.197 中央公論社 1987)です。

錚々たる著者陣がチーズの魅力や文化を語り、料理を紹介されています。松平先生は「気候と風土がつくるチーズの味は、日々変化していきます― チーズのタイプを知って、おいしく味わい、使いこなすための徹底ガイド」という長い大見出しで風土とタイプについて解説されています。これを読んであこがれ、全種類食べようとチーズを探しに出かけた方も多かったのではないでしょうか。
その後、村山重信さん、本間るみ子さんといった松平先生の弟子といわれる方々が次々情報を発信していきます。

上記の2冊はもちろん絶版ですが、古書店ではわりと見かけることがあります。目にしたらぜひ手に取ってみてください。

『牧野のフロントランナー』
(和仁皓明著)

松平先生の功績については、『牧野のフロントランナー 日本の乳食文化を築いた人々』(和仁皓明著 デーリィマン社 2017)に「チーズ流通の先駆者たち」として端的に書かれていますので、他の先人たちの項とともに、ぜひ読んでいただきたいと思います。
現在日本でチーズに関わる人は、まさに先駆者である松平先生のことを知っておいてほしいですし、決して忘れてはならない存在です。