世界のチーズぶらり旅

山はスペインの救いである

2018年11月1日掲載

山はスペインの救いである
 

コドバンガの教会

前回の洞窟で育つチーズでも触れた、表題の言葉を理解するためには、多少なりともイベリア半島の複雑な歴史を知る必要がある。この広大な半島は人種のルツボといっていい。石器時代にはアフリカからやっていたイベリア族が住み着き、紀元前5世紀頃には金髪で青い目のケルト人が侵入。そして、紀元前200年頃、今度は高い文明を持つローマ人がやってきて、600年にわたりこの半島に様々な遺跡を残して去った。その後キリスト教を信仰するゲルマン人が侵入し西ゴート王国を建てる。しかしこれで終わらない。8世紀、この半島に強烈なインパクトを与えたのは、アフリカからやってきたムーア人と呼ばれるイスラム教を信奉するアラビア人の侵攻である。彼らは当時内紛などで弱体化していた西ゴート王国をまたたく間に席捲し、キリスト教徒を半島北部の山岳地帯に追い詰める。そして、この話の舞台となるピコス・デ・エウロパ(ヨーロッパの尖塔群)と呼ばれる石灰岩の山群が登場するのである。

国土回復の先駆者ペラーヨ像

この山中に追い詰められたゴート族は、この岩山に無数に点在する洞窟を利用してゲリラ戦を展開。そしてコバドンガという所でゴート族の貴族の末裔であるペラーヨが、少ない兵を率い初めてイスラム軍を打ち破るのである。そして、それがレコンキスタ(国土征服運動)の始まりとなるのである。伝説は勇ましいが、この初めての勝利からイベリア半島全体が、再びキリスト教の手に帰するのはそれから実に774年後の事である。こんな事をつらつら考えながらバスの外を見ていると、岩山を背景にして教会の尖塔が見えてきた。コバドンガである。この近辺には民家はなないが谷間の道沿いに数件の立派なホテルがある。高台に建つピンク色の石で作られた教会の広場のわきには、レコンキスタの先駆者となったペラーヨの像が立っている。その台座に書かれているのが「山はスペインの救いとなるだろう」という言葉だというが、スペイン語は分からない。

山のチーズ ガモネウ

近くにはペラーヨが隠れたという洞窟があるらしいが、そこには大量の観光客がたむろしているので、敬遠して立派な土産物店をのぞくと、なんとそこには多分この辺りの洞窟で熟成したと思われるチーズが並んでいた。ラベルにはQueso Gamoneu と書かれている。ガモネウは牛乳と山羊乳を混ぜて作られたブルーチーズでC.P.A.教本に名前だけは載っている。迷わずに一個買い求めた。そこで、はたと気が付いた。このチーズはこの旅のどこかの昼食で食べた記憶がある。

レストランで出会ったチーズ

調べてみるとそれらしきチーズが写真に写っていた。それが4点目の写真である。いかにもピコス・デ・エウロパの山中で作られたと思われる素朴なチーズである。サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者が通る主道は少し離れてはいるが、これらの山のチーズは、疲れた巡礼者の救いとなってきたのかも知れない。

この地方のチーズ盛り合わせ