沖縄にチーズ作りの怪人がいた
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この1月の末に沖縄を旅した。沖縄のある工房で作られているという、不思議なチーズに出会うために、仲間ともに那覇市の南東10km余の所にある南城市を目指した。ゆるやかに波打つ大地を縫うように走るこの島特有の田舎道をゆくと、ススキに似た穂を伸ばした砂糖きびの畑が現れては消える。まもなく酪農家の車庫らしきところで車を降りると、そこには背の丈180cm、体重100kgはあろうかという巨体の陽気な外国人が出迎えてくれた。その人の名はジョン・デイビスさん。イギリスのケンブリッジで生まれ28歳の時に来日した人で、その見事な真っ白いあごひげを蓄えた風貌はサンタクロースそのものである。
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すぐに、チーズ工房に案内されたが、これが車庫のわきにつくられた超狭い部屋なのである。仲間6人で行ったが3人ずつしか入れない。部屋の中央にはステンレスの大きな作業台があり、そのわきには、普通のバスタブより少し大きめのチーズバットがある。そして、壁面にはスーパーによくある、陳列用の冷蔵庫が占拠していてこれが熟成庫らしい。その中には様々な形や色のチーズが並んでいた。
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彼はそこから、次々とチーズを出してきては、流暢な日本語で説明してくれるが、どれも、我々の想像を超えたものなのだ。セミハードのチーズはやはりチェダー系らしく、そうしたチーズをベースに地元産のバジルなどのハーブやスパイス、柑橘類の皮、野草のヨモギなどを使い様々なチーズを作っている。極めつけの泡盛用の黒麹を使ったチーズも含めて、その種類は30種類を超えるという。だが、ヨーロッパで伝統チーズを学んだ人達がこれらのチーズを見たら、思わずのけ反ってしまいそうである。彼はこのようにゆるい自由な発想で、次々とユニークな製品を生み出していく、チーズ作りの怪人なのである。だが、この70歳の怪人が作るチーズは、今やレストランのメニューに載ったり、近くの小さな専用のショップで売られているが、地元でなかなか人気があるようだ。
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ジョン・デイビス氏は1976年28才の時に来日。東京で10数年間、札幌でも15年程英語教師などを勤め59歳の時に定年退職と称して仕事をやめ、札幌で知り合った奥さんと共に沖縄に渡る。だがここでは、イギリスチーズの入手が困難だったため、それでは自分で作ろうと、全くの素人ながら資料を読み漁り、スーパーの売れ残りの牛乳を原料に自宅の風呂場でチーズを作り始める。だが、生来の凝り性と研究熱心が高じ、常識にとらわれないユニークな発想のチーズを次々と作りだしていく。まもなく近くの牧場主と知り合い意気投合し原料乳を供給して貰うとともに、その敷地の一角を借りて現在の工房を作る。ブランド名は、彼の風貌のイラストをあしらったTHE CHEESE GUY。那覇周辺ではかなり知られているらしい。
工房見学の後は、近くのレストランで試食会兼昼食となったが、そこでも怪人の弁舌は止まらない。チーズの盛り合わせから、チーズサラダに行きつくまで2時間ぐらいはかかったか。チーズとは何かを考えさせられた貴重な体験であった。
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