フロマGのチーズときどき食文化

木の葉に包まれたチーズの話

2018年1月15日掲載

木の葉に包まれたチーズの話

柏餅のような日本のチーズ

緑豊かな日本では草木の葉や茎で巻いたり包んだりした伝統的な食品がたくさんあります。柿の葉寿司、朴葉寿司、ちまき、かしわ餅、笹団子、などなど数え上げたらきりがない。包装素材のなかった時代、植物の葉などを工夫して使っていたのでしょう。それが図らずも保存性を高めたり、味の個性になったりしたのです。
20世紀の後半、そのような伝統を持つ日本にチーズ工房が続々と登場すると、植物の葉や花を使ったユニークなチーズが次々に作られていきます。最初の写真はそんな例の一つでシェーヴルを柏?の葉で包んだユニークなものです。そんなわけで、本家本元のヨーロッパに草木を使ったどんなチーズがあるか、ほんの一部ですが紹介しましょう。

チーズを栗の葉で包む

まず思い浮かぶのが南フランスの、バノンという山羊乳のチーズです。産地のバノン村はマルセイユの北方100kmほどにある栗の林に囲まれた小さな村で、この林の中の工房で作られる、バノン・ア・ラ・フイーユ(Banon à la feuille=葉で包んだバノン)の包装作業を見学することが出来ました。
作業場には6名ほどのおばさんが、100gほどの小さなチーズを見事な手さばきでオー・ド・ヴィに浸した栗の葉で包み、ラフィアという椰子の繊維で縛っていました。このチーズの原型は2千年もの歴史を持つといわれています。

いら草を使ったチーズ

次に数年程前の事、ロンドンのチーズ店で草の葉を張り付けたセミハード系のチーズを発見しました。帰国後調べてみるとコーニッシュ・ヤーグという1980年以降に開発された新しいチーズだそうで、表面に張り付けてあるのはイラクサ(刺草)の葉なのです。この植物は筆者の故郷の北海道の山谷にも多く自生し、葉にあるとげに刺されるとかゆくなるので、地元ではカイカイ草と呼んでいた。そのイラクサの葉をチーズの表面に美しく張り付けてあるのです。そのためかチーズに独特な風味があり美味でした。

イタリアの名品ブッラータ

次は、名前は知っていたが見た事がないチーズが突然現れたという話です。ある年の春にイタリアはプーリア州のホテルに宿泊した朝の事。朝食から戻ってきた仲間が「すごくうまいチーズが出ていたぞ」といったのです。チーズの様子を聞いて、瞬時にどうもアレらしいと思い食堂に駆けつけると、やはりブッラータというこの地方特産のチーズでした。柔らかいチーズは無残にも崩されていたけど、そのフレッシュで濃厚な味わいは衝撃的でした。このチーズはモッツァレラの生地を刻んで生クリームと混ぜ、袋状のモッツァレラに充填して口を閉じ、ユリ科の植物の葉で包みます。写真は後日撮影したものです。葉っぱは使っていないけど、現在では日本でも造られるようになりました。

この他にも植物の葉や茎を使ったチーズは各国にあります。楓の葉で包んだスペインのブルーチーズ、バルデオンやキャベツの葉で包むチーズがイタリアにあるそうですが、最もびっくりしたのが最後の写真のチーズ?です。ある食品展で見かけたのですが、何とチーズを牧草で包んである。説明者が不在だったのでチーズ名や製法などは調べることはできなかったけど、チーズコーナーにあったので間違いなくチーズなのでしょう。

乾草に包まれたチーズ