世界中で飼われている豚は、ほぼ100%人に食べられるために生きている。なのに人は豚を尊敬しない。ブタヤローなどと言ったりする。でも中には豚を尊敬していた人もいました。19世紀にフランスで初めてレストランガイドを作ったグリモ・ド・ラ・レニエールという美食家です。父親は大金持ち。豚肉屋だった祖父が巨万の富を築いたのです。そのためか、グリモは豚を偏愛し晩年は豚と暮らしていたといわれ「豚は百科全書的動物」といったとか言わなかったとか。
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そう、豚こそはまさに百科全書的家畜です。中国では「食べられないのは泣き声だけ」というそうです。といいながら不思議なのは、ヨーロッパ、とくにフランス料理を見ると豚肉料理は少ない。中世の貴族たちの宴会料理にも豚肉はまず出てきません。豚肉料理は庶民の料理だったのでしょう。フランスでブシェリーと呼ぶ肉屋には牛肉や羊肉はあっても豚肉は売っていないのです。でも豚肉の大半はハム、ソーセージを初めとする多くの加工品になる。その種類の多さは半端ではない、びっくりします。
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そんな豚肉加工品で私が特に好きなのが生ハムです。生ハムの名産地は南欧に多くイタリアとスペインが争っています。豚の後肢を丸ごと塩漬けにして乾燥させるには、空気が乾いている南欧が向いているのでしょう。スペインのハモン・セラーノ、イタリアのパルマ・ハムは日本でもよく知られていますね。そのパルマ・ハムはチーズのパルミジャーノとは血を分けた兄弟なんですね。このハムの原料豚にはパルミジャーノのホエーを飲ませるべしという規約があるからです。前にも書きましたが、豚にホエーを与えるというのはローマ時代から行われています。
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フランスの豚肉製品の特長は、多彩なパテなどの他に内臓を腸に詰めたアンドゥイユとか血液を詰めたブーダンなど変わったものがたくさんあることです。シャンパーニュ地方にサント・ムヌーという町があり、なぜかここはトン足料理が有名なのですが、1791年6月のある日この町に豪華な8頭立ての馬車が現れ住民はざわめきます。乗客は密かにパリの革命勢力から逃れ国外を目指すルイ16世と王妃のマリー・アントワネットとその家族だったのです。彼らはこの町で護衛の兵達と落ち合うはずが、大幅に遅れたため兵たちは解散した後だった。そして、この町の町長は、彼らが王の一行であると睨んで次の町のヴァレンヌに先回り。ついにここで王一家は捉えられ、やがて断頭台に上るのです。後世の人達はルイ16世がサント・ムヌーに立ち寄ったのは、名物のトン足料理を食べるため、という呑気な話を流布させます。今もこの話が書かれた資料を目にしますが、日本にこの料理はないので作ってみました。ラルース料理辞典のレシピ通りトン足をブイヨンで煮込んでから、パン粉をまぶしてオーブンで焼きました。出来上がりは予想していた程度の味でしたが、とても王様が愛するような高貴な味ではなく、ま、一杯飲み屋の名物料理といったところが私の感想です。
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