乳科学 マルド博士のミルク語り

ちょっと変わった作り方をするチーズ

2017年11月20日掲載

チーズの一般的な製造方法は皆様もよくご存じのように「チーズの教本」に書いてある通りです。原料乳の種類、乳酸菌やかびの種類、カードpH、圧搾条件、熟成条件などにより、チーズの組織、味、香りは千差万別です。
しかし、一般的な作り方とはちょっと変わった作り方をするチーズもあります。

ケイジョ・セーラ・ダ・エストレーラ(ポルトガル)

ポルトガルのケイジョ・デ・アゼイタオンやケイジョ・セーラ・ダ・エストレーラなど一部の羊乳チーズでは乳に食塩を加えてから植物性レンネットで凝固させます。

一般的なチーズ作りでは乳に塩を加えません。これは、カゼインミセル中のカルシウムの一部がナトリウムと置き換わり、カードが脆弱になるためです。しかし、羊乳中のカゼイン濃度は牛乳のそれより高く、硬いカードとなるため、柔らかいカードにする場合には乳に塩を加え、カゼインミセル中のカルシウムを減らします。カゼイン濃度が高い乳といえば、水牛もそうです。書物によれば、水牛からチーズを作る場合にも、最初に塩を加える場合があるそうです。

イディアサバル(スペイン)

また、羊乳を原料とし、仔羊レンネットで凝固させたチーズにはわずかな辛味が感じられます(例、イディアサバル、スペイン)。これは仔羊レンネットには仔牛レンネットと同様のたんぱく質分解酵素(キモシン、ペプシン)のほかに、脂肪を分解する酵素も含まれており、熟成中に脂肪が分解され、刺激的な味をもたらします。
ミナスチーズ(ブラジル)は加熱保形性があり、フライパンで焼いて、ちょこっと醤油をかけると、醤油の香ばしさが食欲をそそります。何故、加熱してもとろけないのでしょうか。このチーズはレンネットのみで凝固させ、乳酸菌は使いません。このため、カードのpHが高く(pH 6.4程度)、カゼインミセル中のカルシウムは残ったままです。ミセルの構造がしっかり保たれているため加熱してもとろけないのです。ただし、pHが高いので雑菌に汚染されやすく、日持ちがしません。
ドイツにはハルツァーケーゼという風変わりなチーズがあります。「チーズの教本」には、半透明でモチモチした食感で熱すると刺激的な味わいがする、と書いてあります。何故、半透明なのでしょうか。

ハルツァーケーゼ(ドイツ)

調べてみると、酸凝固カードに塩、炭酸カルシウムおよび重曹を加え加熱します。加熱したカードを塩水でウォッシュすると、表面に酵母やリネンス菌、その他様々な細菌が出現します。内部のpHは重曹により上がり、酸味が中和され、pHは7程度になります。表面も酵母が乳酸を使うためpHが上がります。pHが上がればカゼインが部分的に水に溶け半透明になると思われます。しかし、表面はリンネンス菌の出す色素や酵母の影響で半透明かどうかは判別しにくいのですが、切れば断面は半透明です。表面には様々な微生物が棲みつくので、強烈な風味がします。
ノルウェーのイェトストも変わっています。乳にホエイやクリームを加え、加熱濃縮し、乳糖が褐変しキャラメルのような色となり、甘くなります。加熱濃縮法はアジアに特徴的な作り方です。日本では「蘇」が該当します。日本に乳が伝わった当初の「蘇」がチーズのようなものであったかどうかについては諸説ありますが、その後、「延喜式」に記載された方法では牛乳を約10倍に加熱濃縮したものが蘇で、日本における最初のチーズと考えられています。

蘇(日本)

しかし、イェトストにしても蘇にしても、ホエイ成分を抜く工程はありませんので、乳等省令に記載してあるチーズの規格「・・・乳清の一部を除去・・・」に適合しているかどうかビミョーです。
チーズは、それが作られる土地の歴史や文化的背景と気候・風土などに基づいて、その土地に適した作り方が考案されました。そのため、様々なバラエティのチーズが創り出されたのです。これらの関係に想いを馳せながらチーズを食べるとワン・ランク・アップのおいしさを愉しめるのではないでしょうか。