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日本の子供たちが最初にヤギに出会うのは、あの「狼と7匹の子ヤギ」という童話でしょうか。いま日本で日常的にヤギに接するのはちょっと難しい。ひと昔前には田圃のあぜ道などで白いヤギが草を食べていた。太平洋戦争から戦後の食糧難の時代は、何でも良く食べ飼いやすいヤギの飼育が奨励され、1957年には全国で56万頭のヤギが飼われていたそうです。母乳の出がよくないというお母さんは、ヤギ乳を買ってきて赤ん坊に飲ませたという話をよく聞きました。
以前パリ在住の日本人の主婦が「そろそろ離乳食にシェーヴル(ヤギ乳チーズ)を与えてください」と小児科医にいわれたという話をエッセイに書いているのを読んだことがあります。そういえばC.P.A.の「チーズの教本」のヤギの項に「チーズはシェーヴル(山羊乳チーズ)にはじまってシェーヴルに終わる」というフランスの諺があるのを思い出しました。ヤギ乳は脂肪球が小さいため消化吸収がよく、牛乳に比べアレルゲンが少ないので、幼児や高齢者にはヤギのチーズが向いているというのです。
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日本のヤギといえば真っ白でかわいい。でもあれは昔から九州にいたシバヤギとスイス、ベルン州ザーネンの谷原産のヤギとの累進交配でつくられた「日本ザーネン」という特有のヤギなんですね。人間とヤギの付き合いは長く、今から9千年前に東地中海沿岸あたりで家畜化されたといいます。ヨーロッパでは国や地方によって様々な種類がいますが、乳用に改良されたヤギは、体の割にはびっくりするほど乳房が大きいのや、カワイクない恐ろしげなヤギもいます。
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ご存じないかも知れませんが、ヤギのひとみ(瞳孔)は人間のように丸くはなく横長で四角い。だから近くで見つめられるとブキミです。
そんなわけかどうかは分からないけど、ヤギはヨーロッパでは悪魔として扱われることもあったのです。ヨーロッパの中世後期に魔女狩りというのが流行した時代、魔女は土曜日の夜にホウキやヤギの背に乗って宴会に集まってくるとされていた。あの有名なゴヤが描いた「魔女の集会」には巨大で恐ろしげなヤギが描かれていますね。
悪魔の話はこれくらいにしてチーズの話をしましょう。日本に最初に知られるようになったヤギ乳チーズはフランス物だったので、シェーヴルというフランス語で広がっていきましたが、これらのチーズのほとんどがロワール流域の産で、比較的小型で形が面白いものが多かった。
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乳量が少なく、チーズの組織がもろいのでこうなったと理解していましたが、昨年カナリア諸島のフェルテベントゥーラ島ではそれらとは別物のヤギ乳チーズに出会ったのです。大きさは7~8kgはありそうな円筒型で、セミ・ハード系のチーズと同じ位の硬さのチーズでした。組織がしっかりしているのは、羊乳を10%位混ぜて造るからでしょうか。味はといえば、悪魔に魂を売るほどでもないけど、けっこうおいしかった。
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