世界のチーズぶらり旅

山羊達の住む島々へ(4)

2016年11月1日掲載

 

荒野の中のチーズ工房

先月に引き続き、「風強き島」フェルトベントゥーラの山羊の話です。カナリア諸島は北西からの強い風が常時吹き抜けているためか、主な島のほとんどの主要な町は、島の東側の海岸線にある。ことさら自然条件の厳しいフェルトベントゥーラ島も、西側の海岸線は波が打ち付ける岩礁帯が続く。内陸に高い山のないこの島は雨が少なく乾燥の激しい風土だが、島の人達は中央部の砂漠の様な所に広大な山羊の牧場を開き、この島特有の山羊乳のチーズを作っているというのである。我々はその牧場を目指した。

砂漠に山羊を放牧

東側の海岸にあるホテルから、内陸へ向かうルートをたどり、島の中央を縦断する道路に向かう。海岸線を離れるとたちまち荒涼とした砂漠状の風景が車窓に広がり民家は見えなくなる。だが、島の中央部を北上する本道に入ると、道沿いに小さな町が時々あらわれる。町の近くには、風よけのビニールハウスの様なものがあり、遠くから水を引いてトマトを作っているのだという。道路沿いには何本もの黒いビニールホースがのた打っていて水源確保の苦労がしのばれる。

マホレラ種の山羊達

やがて本道から離れ少し走ると、小さな丘の上に、一本の椰子の木を従えた牧場の建物らしきものが見えてきた。車から降りて見渡すと、広大な牧場といっても、ほとんど草らしきものは見えないが、そこには無数の山羊が群れている。建物のわきには囲いがありそこには子山羊達がいて、特別の飼料を与えられていた。このような環境でヤギを飼育しチーズを作るなど、緑あふれる国からやってきた者には想像を絶する光景である。日本では耕作放棄地の雑草駆除に山羊を使っているというから、その落差には茫然としてしまう。

ケソ・マホレロを作る

この島の山羊の毛色は様々ながら、すべてマホレラ(Cbra Majorera)という種類なのだそうである。工房に張られたポスターによれば、白、黒、茶色の毛色がまじりあった30種以上のマホレラ山羊がいることになっている。これらの山羊は何世紀もかかって進化し、火山岩の乾燥地帯によく順応し、泌乳量は年間平均600kgと高く、非常に優秀な山羊らしいのである。山羊乳のチーズといえば、小型で柔らかいフランスのシェーヴルがなじみ深いが、カナリアではセミハード系のチーズが多いようだ。そのチーズの名は山羊の品種名と同じマホレロ(Majorero)というD.O.P.認証のチーズである。余計な事だが、山羊とチーズのスペルの一字違いは、山羊は女性名詞、チーズは男性名詞だからである。大きさは中型で、味わいは妙なクセもなく濃厚でなかなか美味しいチーズである。牧場の中には小さなチーズ工房があって、女性が一人でチーズを作っていた。

博物館のオモテナシ

ほかの牧場をも訪ねたが、どちらも広大な砂漠状の土地に沢山の山羊を放ってマホレロ・チーズを主体に、見たこともない独特のチーズも作っている。この島でつくるチーズは、フェルトベントゥーラ島の誇りなのであろう、マホレロ・チーズ博物館まであり、そこでは島のチーズでもてなしてくれた。

この島の料理に関しては、スペインの影響もある様だが特別珍しい物はない。海産物の料理もおおむね素朴である。意外に煮込んだタコがよく出でてきた。100km東のアフリカ沿岸はタコの産地である。日本のスーパーで売られているタコの原産地にモウリタニアとあるものは、この辺りの海域から遥々やって来るのだ。またジャガイモ料理がよく出てきた。大航海時代カナリアの島々は、新大陸に向かう基地だったためか、南米原産のじゃがいもが早くからこの島に根付いたのだろう。しかし、料理はこの島特有のソースをかけた、皮つきの「しわしわジャガイモ」一辺倒であった。最後の写真にそのジャガイモが見える。

我々がこの島のチーズ工房を訪れるにあたり、現地のコーディネイターを頼んだようだが、島の人達は、遠い日本からこの島のチーズを見に来るのが話題になったのか、地元の新聞社?の女性のカメラマンが、ぴったりと張り付いて我々を取材していた。