世界のチーズぶらり旅

スイスの柔らかいチーズ

2015年6月1日掲載

のどかな初夏の高原

スイスの旅は天気に恵まれれば旅の価値は倍増する。特に初夏のスイスは気持ちが晴れやかになる。今回旅したのはレマン湖から北東にベルトのように伸びる中央台地の南側。このあたりの谷は広くゆるやかで、エピセアの林と草原に彩られた高原の向こうには、まだ雪を残した山々が見える。この地勢のゆるやかな中央台地はスイス酪農の中心地である。前回紹介したスイスを代表するグリュイエール・チーズもこのあたり一帯で作られる。高原に足を伸ばせば咲き乱れる高山植物の中でのんびりと草を食む牛達に出会う。

レティヴァとかヴァシュラン・フリブッルジョワなど伝統的な大型のチーズを見た後、スイスの新しい柔らかいチーズを作っている工房を訪ねた。スイスの柔らかいチーズといえば、ヴァシュラン・モンドールしか知らない筆者は、ちょっとした好奇心を刺激された。これは世界的な現象かも知れないが、チーズもクリーミーでソフトな口当たりのものが、人気を集めているようだ。そんな訳でスイスも伝統的な固いチーズだけに頼っているわけにはいかないのかも知れない。スイスの新作チーズに期待!

小さな村の小さなチーズ工房

レマン湖の20kmほど東のゆるやかな谷間をゆくと、森と牧草地に囲まれたルージュモンという小さな集落があり、しばらく行くと、うっかりすると見落としてしまいそうな平屋建ての可愛らしいチーズ工房があった。

予約を取ってあったので、すぐに見学用の白い防護服を着せられて製造室に入れてもらった。入るとすぐにそこはバターの成形をしている人がいてびっくり。長年チーズ工房を訪ね歩いたが、これは初めて見る作業だ。同行の仲間たちは興味がないのか、作業の意味が理解できなかったか通り過ぎて行った。チーズ工房でバターを作っているのは珍しくはないが、木型を使っているのを見るのは初めてだ。製法はまだ少し柔らかいバターを日本の落雁(らくがん)のように板に彫られた立体模様の木型に押しつけて模様を写し冷水で冷やし固める。思わぬところでその写真をものにすることができた。3番目の写真がそれ。ヨーロッパの朝市ではこのバターの木型を売っているのを見たことがある。

木型で成形したバター

訪問時間が遅かったので工房では熟成室と包装の工程しか見られなかったが、かなり広い熟成室には伝統チーズも見られたが、円盤型、円柱型、四角など様々な小型のチーズが並んでいた。写真で見る通り山羊乳のチーズもある。これらのチーズを試食させてもらったが、どれもきわだった強い個性はないものの、それなに食べやすく、現代の味覚に合うように作られているように思われた。

左がヒット商品のフルーレット

その中で牛のイラストが描かれたフルーレット(FLEURETTE)というチーズが、今スイスでも名前が知れ渡った人気のチーズであるらしい。そういえば、ここからけっこう離れたテト・ド・モワンの工房の売店を撮った写真の中にもこのチーズが写っているのを、帰国してから発見したのだった。