世界のチーズぶらり旅

湖畔でワインを楽しむぶらり旅の休日

2015年4月1日掲載

花いっぱいのオーナーの家

スイスの西、フランスとの国境沿いにジュラ山脈があり、その麓に横たわる湖がある。スイスで最も大きいヌーシャテル湖だ、といえばレマン湖の方が大きいんじゃない?という声が聞こえてきそうだが、レマン湖はフランスと半分ずつ分け合っているからヌーシャテル湖の方が大きい。が、日本では知る人の少ない湖だ。この湖の北岸から北に15キロほど登ったところにラ・ショー・ド・フォンという町がある。スイス第三の都市で時計に趣味のある人の中では、世界の高級時計を作る町として知られている。しかし時計は正確であれば何でもいいという私にとって知らない町だった。

オーナー自らラクレットを焼く

この町に宿をとったのは、次の目的地への中継点でもあったが別の目的もあった。この町のチーズ専門店に勤める若い日本女性が、旅の主催者の知り合いで、その女性がこの辺りの案内人になってくれるとの事。彼女が働くチーズ店は可愛らしい店で、わざわざ日本から訪ねたことに感激した店のオーナーが、郊外の自宅にラクレットの昼食に招待してくれたのだ。スイスに来て2度目のラクレットだ。訪ねてみれば、花々に彩られたシャレー風のちょっとしたホテルのような家が木立の中に建っている。その家のわきの芝生には野外パーティー用のテントがあって、薪を燃やすラクレット用の特製かまどがしつらえてある。そのかまどでオーナーが自らラクレットチーズを焼いてサーヴィスしてくれた。夏とはいえ、咲き誇る花々を揺らすジュラの風は爽やかだ。そんな中で皆夢心地で濃厚なスイスチーズの味を堪能していた。

豪快にたっぷりと

ぶらり旅を標榜している筆者だが、チーズの取材はなかなか楽ではない。特に農家製のチーズは朝が早い。しかも、チーズを作るタイムスケジュールはきっちりしていて待ってはくれないのだ。チーズ作りの大方は午前中に終わってしまうから、午後に行ってもせいぜい熟成室が見学できる位である。だから今回のようにチーズ製造の見学ナシは、旅の中の休日である。ラクレット昼食の後はちらりと時計関係の施設を見学してから、夕方にヌーシャテル湖畔の美しいワイナリーでアペリティフとしゃれ込んだ。ヌューシャテル湖北岸のゆるやかな傾斜には葡萄畑が広がっていて、なかなかの名品を作っている。

ワイナリーのご馳走

その中の小さいがとっても瀟洒なワイナリーに案内された。そこは高台になっていて、目の前には小さなオモチャのような可愛らしいゲスト用のレストラン?があり、その向こうには湖が広がっている。ゲストルームのテーブルにはすでに、ハムやソーセジが大皿に盛られ、ワイングラスが林立している。ワイン好きにとってこれ以上の幸せがあろうかと胸が弾む。

湖畔の小さなレストラン

湖を眺め、ゆったりとワインを楽しみながらフト思った。ここから北へ湖畔の道を10kmほど行くとラテニュウムという古代遺跡で有名な所がある。今から150年ほど前に旱魃で湖の水位が下がった時、水中に沈んでいた古代遺跡が現れたのだ。調査の結果、これは2500年程前ケルト民族が暮していた高床式の湖上の住居跡という事で、多くの遺物が発掘され、これをラ・テーヌ文化と命名され、今は立派な博物館がある。筆者は特別に遺跡好きという訳ではないが、この遺跡から小さな孔のあいた土器が発見された。チーズ関係者は、これはチーズのホエーを抜く器であると主張する。いや、あれは果汁を搾る道具だといい張る人もいるが、大かたはチーズ用の器具という事に傾いているようだ。

そんな話がラルースチーズ辞典とか、ヨーロッパの料理の歴史書などにちらほら書かれていたのが記憶の底に残っていたが、よもやこの湖を訪れる事はあるまいと漠然と思っていた。しかし人生何が起こるかわからない。目の前に広がるヌーシャテル湖がそんな古い記憶を掘り起こしてくれたのだった。