世界のチーズぶらり旅

イングランドの豚まん

2012年1月4日掲載

牧草地を自転車が行く田舎道

イングランドの田舎道は美しく変化に富んでいる。緑の草原、夏ならば黄金色の麦畑を取り巻く森や林。そこには誰でも通り抜けられるパブリック・フットパス(略してフットパス)という道がある。この道は歩くことを楽しむためのもので、農家の庭先やゴルフ場の中を通っている所もあり、イングランドやウエールズ全土に網の目の様に張り巡らされている。100年以上の歴史があるというが、最近では自転車が走れる道も出来た。

イングランドの田舎道は基本的に曲がりくねっている。高い山は無い代わりに、地形は起伏に富んでいるから車で走ると景色が次々に変わる。こうした風景の中を歩いたりサイクリングを楽しむ人の姿が随所で見られる。イギリス人は道路を直線にするという発想が無かったようだ。真っすぐな道はローマ人が作ったのだという人もいるほどである。近代になって出来た高速道路はまさにローマ人の発想か。できるだけ真っすぐに水平に出来ているから、高速道路に入ると周りの景色とは隔絶され、やたらに早いばかりで旅は味気なくなることはなはだしい。

美しいMelton Mowbrayの街

前置きはこれ位にして、ロンドンの北にあるスティルトンという村はスティルトン・チーズを有名にしたが、このチーズの発祥はここではなく50km程北西に行ったメルトン・モーブレィという町のあたりであるらしいことは以前触れた。そんなわけで、この町はスティルトンの法的な生産エリアに入っているので郊外にはチーズ工場も多い。

ポークパイの制作実演風景

ロンドンから田舎道を走ったり、味気ない高速に乗ったりしながらこのメルトン・モーブレィの町にアルチザン・チーズ・フェアなるものを見学がてらに立ち寄った。小じんまりとした田園の中の美しい町である。期待したチーズ・フェアは規模が小さく短時間で見学を終え、レストランで昼食をした。イギリスへ来たならやっぱり一度はフイッシュ・アンド・チップスでしょうということで、巨大なタラのフライと揚げジャガの乗った一皿とビールをたのんだ。食事の後広くもない町の繁華街を散策していると、人が並んでいる一画があったので覗いてみれば、なにやらパイの店の様で相当人気がありそうである。

十数種類のスティルトンが並ぶ

店内ではパイ造りの実演をやっていたが、パイ生地に豚のひき肉を詰めて焼いたもので、ずっしりと重くボリュームがある。商品の名はポークパイ。直訳ならぬ曲訳すれば豚まんである。説明によればスティルトンから出るホエーを飲ませた豚肉を使っているという。よく見ればこの製品はEUが定めるところのPGI(地理的表示保護)指定のマークがついている。地元の原料を使い熟練の職人がつくる名品なのである。豚まんは失礼だったかな? この後本命のチーズ専門店へ行ったが、当然のことながら並んでいるチーズの3割位は様々な銘柄や熟成状態のスティルトンがずらりと並んでいた。