世界のチーズぶらり旅

アドリア海の朝の出会い

2011年1月4日掲載

バーリーの市場のチーズ。

テレビ番組の仕事で南イタリアをまわったことがある。ナポリやシチリア島を経て、アドリア海に面したプーリア州を訪れた。この地方はイタリアでも野菜の産地として知られているそうで、州都バーリーの市場をのぞくと、とりどりの野菜が山と積まれ、とくにトマトや日本では見る事が出来ないアーティチョークの種類の多さには驚かされる。また、この町はアドリア海を望む港町なので魚介類の屋台も軒をつらねていた。もちろんチーズの店もあって、様々なチーズを並べていた。私はこの州へ来てから、この地方の特産だと聞いていたチーズを探していたが市場では見つからなかった。

樹齢1000年の木もあるオリーブの林

テレビの取材は、近くに住む手打ちパスタの名人のおばあさんを訪ねて、パスタをご馳走になるという設定であった。その家はどれも樹齢500年を越すというオリーブの林の中あった。かなり裕福なお宅らしく、白亜の殿堂といった感じの二階家の広い庭で、おばあさんがパスタを打つ場面と、同行の出演者が自慢のパスタをご馳走になるシーンを収録したが、ここでも私の目当てのチーズは出現しなかった。翌朝早く、次のロケ地に出発する用意をして、ホテルのレストランへおりていくと、俳優で食通のTさんが、「何か知らないが、とてつも無く美味いチーズがでていたよ」と教えてくれた。もしやと急いでいくとやっぱりあった。ブッラータだ。

東京で買ったブッラータ。

大皿に盛られたブッラータはすでに切り分けられ、チーズの中に詰められた生クリームが流れ出ていたが、はじめて口にしたその味は新鮮にして濃厚。匂いたつミルクの豊饒な香りが衝撃的であった。

ブッラータは、モッツアレラと同じように、固めた牛乳(カード)を熱して餅のように伸びる生地を作り、その生地を袋状にしてその中に同じ生地を刻んで生クリームと合わせた物を詰めて巾着のように口をしばる。そして、外側をアスフォデーロというユリの一種の葉で巻き付ける。

作ったらすぐ食べるチーズなので、なかなか日本にはこないが、バーリーのホテルで出会ってから実に6年目にして東京で手に入れたブッラータがこの写真。本場で食べたものと、味も様子も少し違っていたが、まずは再会を果たしてその味を懐かしんだのであった。(S)