フロマGのチーズときどき食文化

華麗に変身した日本のクレープ

2016年6月15日掲載

ブルターニュ風のクレープを焼く

クレープを最初に食べたのはずっと昔の事。パリのセーヌ左岸のカルチエ・ラタンあたりだったか。日本に海外旅行ブームが到来する直前の事でした。このブルターニュ生まれの素朴なガレットを、当時の日本人はなぜか憧れを抱いていたのです。パリに着くとさっそくお店を探してクレープを食べました。チーズと後は何が包まれていたか覚えていませんが、ともかく、そば粉の匂いのするクレープに、子供の頃、故郷の北海道で常食にしていた、ソバ粉のパンケーキを思い出したのでした。ソバは寒冷な荒れ地でも短期間で実るため開拓地には欠かせない作物でした。初夏あたりから白い小さな花が一面に咲き、いい香りが漂います。現在ではそば粉は高級品になったみたいですね。

可憐なソバの花

ソバ粉は小麦粉のように見えますが小麦はイネ科の植物。ソバは全く違うタデ科の植物です。あのアユに添えられるタデ酢のタデと同じ仲間です。

クレープはもともとフランスの西部はブルターニュ半島の郷土料理でした。あの辺りも、気候が厳しくて小麦は実らず「黒い小麦」と呼ぶソバしか取れなかったのです。このそば粉を水や牛乳でごくゆるく溶いて、クレープ(縮緬)状に焼いたガレットにチーズとかハム、ソーセージなどを包んで、パンの代わりに食べていた物だそうです。フランスではソバの事をサラザン(サラセン)とも呼び、サラセンの麦なんていう言い方もある。イタリア北部でもソバが作られ、ソバ粉のポレンタ(ソバがきですナ)が作られていたそうです。世界でソバ粉といえばこのように何かの代用品として食べられていたのですが、そのソバ粉を「そばきり」という洗練された料理に仕上げた日本人はすごいですね。

ブルターニュのクレープ屋さん

日本にも1980年代あたりから、ブルターニュ風の正統派のクレープ屋さんも現れますが、今はあまり残っていないようです。ところが、このクレープが、日本ではとんでもない形に変身して大ブレークしているのです。ブルターニュの人が見たらひっくり返るでしょうね。ブルターニュ地方の町のクレープ屋さんの入り口には右の写真のように、メニューの写真を掲げている所が多いのですが、なかなか地味なものです。 数年前パリの農業祭(農業見本市)のブルターニュ地方のコーナーで、久しぶりに、素朴な、昔食べたようなクレープに出会いました。さすがに現在はソバ粉だけではなく小麦粉も使っているようです。フランスではブルターニュに限らず、田舎のお祭りや市場の屋台でクレープを焼いているのをよく見かけますが、どれも素朴なものです。 最後の写真を見てください、これが我が日本の名所、東京原宿の竹下通りにあるクレープ屋さんのクレープです。ブルターニュの素朴なイメージのからは、想像できないぶっ飛び方すね。食べ物というより、何かカワイイ系のファッション小物の様で、外国人が見たらびっくりするでしょう。さすがに私は試食する勇気はありませんでした。

日本のカワイィクレープ