フロマGのチーズときどき食文化

とろとろチーズのおいしさ

2016年3月15日掲載

チーズを溶かすフォンデュー

 CPAの今年のテーマは「とろとろ」です。チーズのもう一つの魅力、とろけたチーズのおいしさを広めようというわけです。かつて日本にはプロセスチーズ全盛の時代があったのですが、プロセスチーズはあまり溶けなかった。間もなくあるメーカーが熱で溶ける「とろけるスライス」を発売します。それがヒットして、家庭の朝食は一気にピザトーストになり、大げさに言えば日本人が初めてとろけるチーズのおいしさを知ったのです。

チーズを溶かす料理といえばまずフォンデューでしょう。これは文字通りチーズを(Fondue=溶かす)料理です。この料理は主に固い山のチーズを産するスイスを中心としたアルプス地方で発達しました。手元のフランスで発刊されたチーズ料理の辞典でフォンデューの項を引くと15種類の料理が載っています。大方はフリブール風とか、コンテ風など地域の名がついていて、地元で作られるチーズが使われているのです。イタリア北部のピエモンテ風はフォンティナ・チーズを使い白トリュフが入る豪華さで有名です。

山岳地帯でよく作られるもう一つのチーズ料理はグラタンです。先のチーズ料理の辞典には23種のグラタンが載っていますが、フランスのサヴォワ地方には多彩なグラタンがある事で知られています。Gratinの元の意味は、鍋底に出来たお焦げの事だとか。

フランスで食べたラクレット

最近日本でも知られるようになった料理にラクレットがあります。これはスイスの南西部ヴァレ地方の郷土料理で、チーズの切り口を火にかざし溶けたところをナイフで削ってじゃがいもと食べる。単純な料理だけど、溶けたチーズの旨さが堪能できる料理です。ちなみに料理名の「Raclette」は、削り取るという無粋な言葉からきているのです。最近ではフランスでも流行っているようで、右の写真はパリで撮ったもの。溶けたチーズを生ハムのサンドイッチにかけている。もったいない。ジャガイモの方がおいしいのになぁ。

オーヴェルニュの料理アリゴ

次に、日本ではあまり知られていないアリゴ(Aligot)という料理は、フランスのオーヴェルニュ地方の山中の修道院で生まれたそうです。ミルクで溶いた熱々のじゃがいものピュレに、まだ発酵前の若いライオル・チーズを加えて混ぜるとチーズは溶けて、つき立ての餅のように伸びる。それをソーセージなど肉料理の付け合せにして食べます。

昔々、お腹を空かせて修道院にやってきた巡礼者が、ラテン語でアリ・クイッド(何か食べる物を!)といったのが詰まってアリゴになったとか(文芸春秋社刊「パリの味」より)。

さて、チーズを溶かすイタリア料理いえばピッツァでしょうね。でも、日本には、戦後アメリカから入ってきたため、アメリカ風のピザ(ピッツァ)が広まります。イタリアのピッツァとの違いといえば、イタリアの方がクラストはもっとふっくらしているかな? それにイタリアでは切れ目は入れない。ナイフとフォークで切りながら食べます。

王妃マルゲリータを描いた看板

ピッツアの発祥はナポリとされ、スペインの統治時代に南米からトマトが入ってきて、現在の形になります。そしてナポリのピッツアといえばマルゲリータでしょう。モッツアレラにトマト、そして緑のバジル。このイタリアの三色旗を模したピッツアは1889年ナポリのピッツア職人が、時の王妃マルゲリータに献上し、気に入られてという代物です。

ナポリ名物ピッツア・マルゲリータ

以前、そのマルゲリータを作り出したBrandiというピッツェリアに行ったことがあります。店頭には、マルゲリータ王妃がピッツアを持って馬に乗っている、いかにもイタリアらしく嘘っぽい絵の看板があり、なぜかフランス語で「我らは1889年にマルゲリータ王妃のために、このピッツアを創りだした」と書かれていました。でも、新鮮な水牛乳のモッツアレラを使ったこの店のピッツアは飛び切り旨かった。ナポリ生まれのパンツェッタ・ジェロラモ氏は、ピッツアはマルゲリータしか食べないと公言しているほどなのです。