世界一大きなチーズは?と問えば、チーズを学んだ人なら、エメンタールと即座に答えるでしょうね。その通り!通常生産されているチーズで最も大きなチーズはスイスのエメンタールというのが順当な答えでしょう。直径が80cmから1m。重さは100kgを越える。そして他のチーズと大きく違うのは、チーズの内部に大きな穴(チーズ・アイという)が無数にあいている事でしょう。誰にでもすぐわかるチーズのイラストを描きなさいといわれたらカットしたエメンタールを描けばいい。アメリカのアニメ、トム&ジェリーに出てくるチーズは必ず穴のあるエメンタールです。分かりやすいですからね。
そこで他のチーズには見られないあの大きな穴はどうしてできるか。簡単に説明するとプロピオン酸菌という炭酸ガスを発生する菌を使い熟成の途中で普通より高い温度(19~24℃)で熟成させるとガスが大量に発生しチーズの内部に無数の穴を作るのです。そのためチーズは風船のように膨らんできます。その後11~14℃に戻して更に熟成させます。
このチーズは巨大さと同時にチーズ内部にできた無数の穴が人々に強い印象を与えます。中世の人達はどのようにして、こんな奇妙なチーズを造り上げたのでしょうか。味は他のハード系のチーズ同様ナッティですが、かすかな甘味のある独特な風味を持っています。
話は変わりますが、フランス人が最もたくさん食べているチーズは何でしょう。カマンベールかコンテか? 少し古いデーターですが、フランス人が食べるチーズベストテンの一位がカマンベールからエメンタールにかわったと、フランスのある新聞が報道して話題になったそうです。エーッ!なんでチーズ大国のフランス人がスイスのチーズをそんなに食べるの?という疑問が湧くでしょうね。実はフランスの各地でエメンタール(フランス語ではエマンタル)がけっこうたくさん作られているのです。フランスではチーズを食後に食べるという伝統的な習慣がありますが、近年フランスの家庭でもサラダはじめ料理にチーズを使うようになり、使い勝手よくカットされたり卸したりしてパックされた安いエマンタルに人気がでたらしいのです。
スイスのエメンタールは、確かな記録はないけど13世紀頃からエメン川一帯で造られていたようです。フランスのエマンタルは19世紀にスイスとの国境のサヴォワ地方に移り住んだスイス人によってつくり始められたそうです。四番目の写真がそのエマンタル・ド・サヴォワです。スイスの物よりやや小さい。このほかジュラ地方や大西洋側のブルターニュ半島などでも作られているのです。前出の資料によればフランス人のエマンタルの年間消費量は日本人の年間のチーズ全消費量より多い。日本ではエメンタールはフォンデューによく使われますが、フランス産のエマンタルはまだ見かけたことはありません。