フロマGのチーズときどき食文化

ミルクをもらう動物達のこと

2014年7月15日掲載

アボンダンス種の牛

チーズの事を書く時いつも困るのは「乳」という言葉です。この漢字の読み方は広辞苑によれば一つはニュウで、もう一つはチチと読むとあります。これはもうご存知の通りですが、しかしこの漢字の意味するところは単純ではない。日本に乳文化のなかったためか、乳という日本語は実に曖昧なのです。辞書には、「乳」は①哺乳類が乳腺から分泌する液体。②乳房とあります。つまり動物の肉体の部分も、そこから分泌する液体も「乳」の一字で片付けているのです。さらに日常の会話では幼児語とされるオッパイの方がよく使われニュウとかチブサなどはあまり出てきません。従って今回の表題も「乳をもらう・」では何か素っ気ないのでミルクとしたわけです。以上筆者の愚痴でした。

アボンダンスのチーズ

さて、チーズをつくるにはミルクがなければ始まらない訳ですが、その原料となるのは、日本ではほとんどが牛のちち、つまり牛乳ですね。チーズ作りの歴史が長いヨーロッパではチーズの原料を提供する動物の種類はもっと多彩です。牛の他、山羊、羊などの乳や、場合によってはこれらを混ぜたミルクからチーズが作られています。また南イタリアでは古くから水牛の乳でご存じのモッツアレラが作られてきました。しかし、チーズの生産量から言えば牛の乳から作られるチーズが世界的に見ても多いのですが、ヨーロッパでは同じ牛でも種類が多く、地域や国によって在来の牛にこだわっている所もたくさんあります。

ラコーヌ種羊の搾乳

例えばフランスの東部、レマン湖の南岸に位置するオート・サヴォワ地域にアボンダンスというアルプスに囲まれた小さな町がありますが、このあたり一帯で作られる中型のチーズの名もアボンダンスで、その原料も主としてのアボンダンスという牛のミルクを使います。このようにチーズも牛も地名も同じというのは珍しいのですが、なぜこのように牛の品種にこだわるかといえば、特に地形や気象条件の厳しいヨーロッパのアルプス地方などでは、それぞれ厳しい風土に適応した牛が古くからで飼われ、長い間その牛のミルクでチーズを作ってきたという事情があります。それが近代になってから、それぞれの牛のミルクや風土の違いによってチーズの風味に特徴が出ることが知られるようになります。そこで、そうした伝統的な味を守るためにEUのPDO(原産地名称保護)の指定の条件にも生産エリアなどの他にミルクをもらう動物の品種を規定したりするわけです。

アルピーヌ種の山羊

ミルクをもらう動物は他に羊や山羊もいますがこちらの方が歴史は古く、もう1万年位のおつきあいです。ヨーロッパでは山羊より羊のミルクから作られるチーズが多く、イタリアで作られているペコリーノや、イベリア半島にもマンチェゴをはじめとする多くの羊乳チーズがあります。フランスではかの有名な青かびのロックフォールは、ラコーヌ種という羊のミルクから作られます。

最後に山羊乳のチーズですがフランスではシェーヴルと呼び、ロワール川流域が一大産地になっています。このようにさまざまな種類の動物のミルクから作られる多彩なチーズも、今では遠い日本の食卓にも少し手を伸ばせば届くようになったことはうれしいことではありませんか。