フロマGのチーズときどき食文化

トンカツからチーズの話へ

2014年3月15日掲載

世界に通用するトンカツ

手軽でおいしい惣菜として日本中に普及したトンカツですが、はてトンカツという名は何語なのかと考えたことありますか。実は外国との合成語なのです。トンは豚、これはわかりますね。ではカツとは何だろう。フランス語か英語か。フランス語で骨付背肉をコートレット、英語ではカトレットといいます。明治時代に外国料理が入ってくると子牛の背肉の揚げ焼き料理をビーフ・カツレツといったそうです。後に豚肉を使うようになると、それをポーク・カツレツといった。昭和になって豚肉の方が一般的になると、ポークをトンと呼び換えてトンカツの名前が誕生するわけです。イタリアにコトレッタ・アッラ・ミラネーゼという料理がありますが、これがトンカツの遠いルーツだという説もあります。日本料理が世界的なブームの昨今、外国でも「トンカツ」はそのまま通用するそうです。

日本には無いアンドゥィユ

さて、トンカツから豚肉の話になります。豚肉は宗教や民族によって禁忌する地域もありますが、豚ほど人類の食卓に貢献してきた家畜も少ないでしょう。豚肉製品をみれば、その種類の多さには驚かされます。私はハム、ソーセージなどの豚肉製品が大好きなのでヨーロッパの市場は宝の山ですね。日本の店頭に並んでいるのは大手の製品が多く、彼らは売れ筋製品しか作らないので味はみな同じです。フランスではシャリュキュトリーという専門店があって、あらゆる豚肉製品が売られています。その中で日本ではまず売っていないものといえば、ブーダンと呼ぶ血のソーセージ各種、内臓で作るソーセージのアンドゥィユ、それに私の好きなフロマージュ・ド・テットという頭肉のゼリー寄せ、そしてイタリアで豚の前足で作るソーセージ、ツァンポーネなどでしょう。

巨大なモルタデッラ

日本でいうボーローニャ・ソーセージはイタリアではモルタデッラといいその巨大さにはびっくりします。このようにヨーロッパでは豚肉は加工品にすることが多く、レストランでは豚肉の料理はあまり出てきません。でもスペインやポルトガルなどでは子豚の丸焼きを名物にしている所があり、ツアーコンダクターは必ず客を連れて行きます。そんなにおいしいとは思はないけど何度も連れていかれました。あれは哀れでいけません。

豚足料理が王様の好物だったという話をしましょう。パリの東にサント・ムヌーという町がありますが、ここはサント・ムヌー風の豚足料理で有名なところです。時はフランス革命の真っ最中。パリにとらえられたルイ16世の一家は、深夜、馬車で脱出し、国外逃亡を図ります。しかし、その日の夜には、パリの東、シャンパーニュ地方のヴァレンヌという村で、革命派にとらえられてしまいます。その原因は食いしん坊の王が、途中のサント・ムヌーの町で豚足料理を食べて、時間をロスしたからだという事です。話の真偽は別にして、トン足が王様の好物というのには驚きませんか。かつて日本ではゲテ物扱いでしたからね。

パルミジャーノのホエー

さて、ここで豚とチーズの深い関係を書いておきましょう。古くからチーズ作りにとって豚は大切な家畜でした。チーズから出るあの大量なホエーを処理してくれるからです。ローマ字時代の農学者カトーは百頭の羊に対して十頭の豚を飼ってホエーを処理させるべしと書いている。イタリアのパルマハム協会では、生ハムの原料豚はパルミジャーノのホエーを与えなければならないと規定しています。乳酸菌がたっぷり含まれたホエーは美味しい肉質を作るための絶好の栄養ドリンクなのでしょうか。