まず右の写真を見てすべて名前を正確に言える人は偉い!これらの野菜の名前には複雑な事情がからみ合っていてとても難しいのです。昔、和名でシチャ(チサとも)と呼ぶ野菜がありました。「乳草」や「萵苣」という字が当てられていますが、このキク科の野菜は切ると白い液が出てくるので、チチクサからこの名がついたとか。しかし、しばらくして日本にサラダという生野菜を食べる料理が一般家庭に定着するに従って、チコリと呼ばれる葉のちぢれた野菜が見られるようになります。これもチシャの仲間ですが、この種の野菜は年々改良が進み、今ではサニーレタスとかプリーツレタスなどおしゃれな名前が付けられ種類も多くなりました。でも初期の頃は、少しにがいチコリと称するチリチリに葉がちぢれたもの(写真A)が主流だったように思います。
ところがある日いきなり、これはチコリではなくエンダイブなのだという事になった。 初めて目にする白い砲弾型のもの(写真B)がチコリだというのです。この野菜は今もそれほど流通していませんが、当時は外国人客が多い東京青山のスーパーでなければお目にかかれなかった。現在の野菜図鑑などでは写真AがエンダイブでBがチコリです、間違えないようにと念を押している、という事は今も混乱が続いているのでしょう。少し料理の知識がある人なら写真Bの方をアンディーヴといっているでしょう。実は写真Bをフランス語では Endive(アンディーヴ)といい、英語ではChicory(チコリ)と呼んでいるのです。そこで農水省は1970年代に業界の人を集め、上記の図鑑のように英語に統一しようとしたそうですが、食品業界や料理業界ではBをアンディーヴと呼ぶことに固執したため決着がつかず現在に至っているとか。ちなみにフランスではこの種類の野菜はすべてシコレ(Chicorée)の範疇で、葉がちぢれた方をシコレ・フリゼなどと呼んでいるようです。
さて、写真CとDの話に入ります。皆さん、写真Cはどう見てもラッキョウですよね。しかし包装紙には「エシャレット」とある。この名が生まれたのは1950年代だそうです。1年物のラッキョウを生食用として発売するにあたり、しゃれた名前を付けて売り出すことを考えた。その結果フランス料理の重要な香味野菜であるエシャロット(Échaloto)からヒントを得て(多分)エシャレットと命名されます。これはある程当たってサラリーマンが行く一杯飲み屋では、味噌をつけて食べるのが定番メニューになります。当時本物のエシャロットはまだ日本では見られなかったので問題はなかったのですが、1970年代にフランス料理がブームになると、いよいよ御本家(写真D)の登場となるわけです。それまではフランス料理を目指す人ですら本物を見た者少
なく一字違いのエシャレット(ラッキョウ)をそれと信じていた人がいたそうですから、一般の人は推して知るべしですね。先日、久しぶりに、例の青山のスーパーを見に行ったら、ラッキョウと書かれた棚にエシャレットと表示された包装紙に包まれ、写真Cが並んでいました。また写真Bの包装紙にはアンディーヴとチコリの両方が表示されているものもあり、混乱は今も続いているのです。