フロマGのチーズときどき食文化

ニンニクの力

2013年5月15日掲載

江戸前期の俳人山口素堂といっても知らない人が多いでしょうが、「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」という句は聞いたことありますね。初鰹(はつがつお)の季節が来ると必ずどこかの媒体が引用するので有名になったのですが、この字余りの排句は視覚、聴覚、味覚と三拍子そろっていて初鰹のCMソングとしてピッタリというわけです。

フランスのニンニク

初鰹といえば江戸の川柳にも登場しますが、江戸では当時は刺身にしてワサビではなく練りがらしで食べていたんです。鰹といえば土佐の高知が有名ですが、ここでは土佐造りといってワラの火であぶって厚めに切ります。そして、柚の酢のタレをかけて叩いてなじませニンニクの薄切りをそえます。都会の人口密集地では生のニンニクを食べのる気が引けますが、土佐ではみなバリバリ食べてます。みんなで食べれば臭くないというわけです。

さてニンニクの話でしたね。人類は有史以来ニンニクを食べていました。エジプトのピラミッドを作る労働者にもニンニクが支給されていたといいますから、古くからスタミナ食とされていたのですね。また薬用としても広く利用され、貧者の薬といわれたそうです。ローマ時代には結核の薬とか下剤とか、また、蛇やサソリにかまれたときなどにも使われたとか。

パワーのもと黒ニンニクをどうぞ

いま、ネットで調べると元気の元とか、パワー増強などといううたい文句でニンニクの加工品が健康食品として結構高値で売られていますが、日本人はもっぱらそちらの方に関心が強いのでしょうか。しかし、あまり元気が出ると雑念が湧いてちょっと困るというのが修行僧がいるお寺です。近くの小さなお寺に「不許葷酒入山門」と彫られた石柱がありました。葷はニンニク類のことで、修行の妨げになるからニンニクと酒は山門に入るべからずというわけです。

ニンニク山門に入るべからず

日本ではニンニクを生で使う料理は少なく、筆者も土佐の鰹の叩きしか知りませんが、ニンニクといえばキムチとかカルビなどの韓国料理を思い出す人が多いでしょう。でも、ご存じのように、イタリアやスペインなどでもニンニクを良く使いますし、フランスでも南の方へ行くとブイヤベースに添える、アイヨリやルイユと呼ばれる生のニンニクを使ったソースがありますが、簡単に言うとニンニク入りのマヨネーズといった所ですが、ピリッとした生のニンニクの辛味があります。ルイユの方はトウガラシが入るのでさらに辛い。南フランスでは、茹でた魚介とか生野菜に添えられることも多く、田舎町を歩くと路地裏からニンニクの匂いが漂ってくることがあります。

ニンニク風味のチーズ。

さてチーズの方はといえば、スパイスやハーブを使った物は各国にけっこうあります。しかし、ヨーロッパの古典的チーズでニンニクを使ったものは、なかなか見当たりませんが、新しいチーズではフランスで作られたクリーム系のチーズがあります。このチーズには何種類かありますが、その中にニンニクとハーブが入ったのがなかなか秀逸です。ニンニクは匂いが強烈だから、どうしても粗野な感じになるのですが、このチーズはなかなか繊細に仕上がっています。最近日本の大手メーカーで出したニンニク入りの裂けるチーズもなかなか面白いですよ