すでにマスコミなどで報道されているのでご存じの方もいらっしゃると思いますが、本年3月に米国の9州で飼育されている牛から鳥インフルエンザ(H5N1亜種)が検出されました。これら牛から搾乳した生乳には 1000万個/mL以上のウィルスが検出され、低温殺菌(63℃30分間、72℃15秒間)すると1/3万以下に低下しましたが、殺菌しないとウィルスは数週間感染性を維持したそうです(図、東京大学国際高等研究所)。米国では牧場で働いている従業員2名が鳥インフルエンザに感染しています。一旦、感染すると致死率は50%もあるそうで、牛→ヒトへの感染は何としても防がなくてはなりません。
このような報道を知れば、オーマイガーとなりますが、FDAの発表によれば感染牛の肉からはウィルス感染は検出されていません。さらに、ウィルスが感染した牛乳を飲んでも、加熱殺菌されていればウィルスの痕跡が認められても実害はないとのことです。また、牛の場合は死なずに回復するので殺処分する必要もないと指摘しています。ただ、UHT殺菌の場合はどの程度ウィルスが残存するかについては記載がありません。
ウィルスをマウスに感染させた実験結果では、ウィルスの増殖は乳腺の他、肺。鼻孔、心臓、腎臓など内臓で認められましたが、乳頭、糞便、目、および腸管での増殖は殆ど認められませんでした(New England Journal of Medicine doi:10.1056/NEJMc2405495, 2024/5/24)。
世界的な鳥インフルエンザのヒトへの感染状況は、厚労省の資料(図2)によれば、東南アジアが多く、インドネシア、カンボジア、タイ、中国などで感染が発生しています。アフリカではエジプトに多く、英国、スペイン、北米などで感染者が発生しています。
もし、日本で鳥インフルエンザウィルスが牛に感染したことが確認された場合の対応策については何も決まっていないようですが、感染牛は隔離することになるでしょう。さらに、感染牛の世話を行う方はしばらくの間非感染牛の世話をすることができないでしょう。家族経営の牧場では、現実的には経営が難しくなる可能性があります。また、感染牛から搾乳した生乳は例えウィルスが失活していたとしても廃棄することになると思われますが、垂れ流しは論外です。
もし、ヨーロッパでも鳥インフルエンザウィルスの牛への感染が発見されたら大変です。特に無殺菌乳から作るチーズを輸入する場合は感染の有無を慎重に調査しなければなりません。
今後の推移を注視する必要があります。
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