<チーズの形を作る4>
CPAより2016年に刊行された『チーズを科学する』というテキストには、チーズの加塩について、おおよそ、以下のような記述がある。「塩はチーズをおいしくするという役割の他に、浸透圧によりチーズの表面からホエイの染み出しをうながしチーズの表皮を作る。これにより有害菌の内部への侵攻を防ぎチーズの保存性を高める」と。
これを見ると、チーズにとって塩は単に味を作るだけではなく、塩分の脱水効果を利用して硬い表皮を作り、チーズの大きさや型を作っていくという役割も果たしているのである。ただ何となく塩はチーズに塩味を付けるものと考えていた筆者にとっては、その複雑な働きは驚きであった。そんなわけで今回は塩がどのような形でチーズにかかわっているかを写真でお見せしよう。
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写真①は日本初の『チーズ図鑑』の制作のメンバーに加わって、フランス北東部のマンステル村の小さな工房で撮ったもの。この工房ではドイツとの国境近くに連なるヴォージュ山脈の尾根筋で若夫婦が二人で牛を飼い、乳を搾って郷土の名品マンステル(Munster)チーズを作っていた。
写真は若奥さんが手作業で、愛おしむようにチーズに塩をしている所である。この時に試食したチーズの味は忘れられない。
写真②を見てチーズ名が解る人は偉い!これはフランスで最も有名なチーズ、ロックフォールの加塩風景だ。でも、日本からツアーでいく普通のチーズ巡りの旅ではこの光景を見ることはできない。ツアー客の90%以上は南フランスの過疎地にあるロックフォール・シュール・スールゾン村の岩山の洞窟にある巨大な熟成庫で、熟成中のロックフォールを見学し、そのまま帰ってゆく。そのため、このチーズを作っている現場を見た事がある人は少ないようだ。それは、この洞窟では熟成だけでチーズは作っていないからだ。
このチーズの製造所の所在地は南西フランスの6県にまたがっているけれど、原料は乳量の少ない羊乳なので、どの工房も規模は小さい。そんな中で、この写真は比較的大きな工房でロックフォールが生まれる現場をとらえる事ができた。しかも、めったに見ることができない加塩中のチーズをカメラに収めることができたのは幸運であった。これ等の工房で造られるチーズのすべては、最終的にはロックフォール村の、あの大きな岩山の洞窟に集められ熟成させるのである。
これまで見てきたチーズの加塩法は、塩を直接チーズの表面から浸透させるやり方だが、もう一つは塩水にチーズを浸す方法がある。ハード系のチーズによく使われているが、この方法は大きな塩水槽が必要で、しかも、近くに澄んだ水が豊富にないと難しそうだ。
写真③はスイスの北西部の牧場の中にあるチーズ工房で撮ったもの。飽和食塩水に浸されているのは、大型のチーズ、スプリンツ(Sbrinz)である。このチーズのカタカナ名を見て読み方が違うといってくる人があるけれど、今回はそれを説明するスペースがない。
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写真④は北イタリアのパルミジャーノの工場で撮ったもの。イタリアの伝統的なチーズ工房といえば中小規模の工房が多いけれど、イタリア北部で造られるグラナ系の工房は、大型で近代化された工場が多く加塩も写真④のように、すべてが自動化されている所が多くなった。
写真⑤はチーズ専用の塩で、工房を見学するときに作業場で時々見かける。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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