フロマGのチーズときどき食文化

チーズ造りの道具たちの仕事を見る④

2024年5月15日掲載

<チーズの形を作る3:>

①:カードを細断しモールドに詰める

チーズを作るには、まず原料のミルクを凝固させる。これをカードというが、これをピアノ線を張ったカード・ナイフで細かくカットし攪拌しながら温度を上げて水分を放出させ、一定の硬さのカードを作る。次に、このカードを決られた大きさのモールドに詰め、プレス機で加圧し目的のチーズの形を作っていく。というのが、大方のハード系のチーズのやり方だと、筆者はある時期まで信じていたのである。従って、すべてのハード系のチーズの工房には必ずプレス機があると思っていた。

②:中型のチーズは横型のプレス装置が多い

ヨーロッパのチーズを訪ね歩いてすでに半世紀。少し古い話になるけれど、チーズの中で最も硬いイタリアのパルミジャーノの工房を最初に訪ねた時にびっくりしたのは、この超硬質のチーズの製造室にはプレス機がない事だった。その頃、筆者はまだチーズ生成のメカニズムを理解しておらず、柔らかいチーズはプレスせず、ハード系のチーズは高圧でプレスして、チーズの形と硬さを作っていくものと単純に思い込んでいた。写真②の女性の右側に見えるのは中型のプレス装置だが、このタイプは写真のように横型が多い。

③:たて型のプレス装置で形を作るレティヴァ

写真③はスイスのレティヴァ(L'Etivaz)という牛乳製のチーズのプレス装置で2個のチーズを重ねてプレスしていた。この様にチーズの大きさや硬さによって、プレスの仕方はかなり違ってくるらしく、工房ではそれぞれのチーズ専用のプレス器を採用しているらしい。この様に、小さな工房が多いヨーロッパにはチーズの種類と同じ数のプレス装置があるといっても過言ではなさそうであった。

さて、ある年の晩秋に出版社の取材に同行し、初めてパルミジャーノ・レッジャーノ・ディ・モデナというチーズを訪ね、北イタリアのモデナという美しい町?を訪ねた。だが二泊したこの町を一度も見ることはなかった。というのはイタリアの北西部の一部は11月になると終日ミルクを流したような濃霧に覆われるというが、我々が訪ねたのはちょうどその時期で、高速道路も前の車のテールランプを間近に見ながらゆっくり走り、ホテルから近くのチーズ工房へ行くにも道案内がいる。そんなわけで二泊したこの美しい町、モデナを全く見ることができなかった。従って、この時の旅の写真は太鼓型のパルミジャーノの製造室や熟成室の写真ばかりで全く面白くないのである。聞いた風な事を書くならば、チーズは風土に育てられるという側面もあるというから、やはり周りの美しくも個性的な風景も必要なのである。とはいえ世界に冠たるこのチーズをじっくりと撮影できたのは幸せとしなければなるまい。

④:パルミジャーノの最初の型は円筒形

そんな訳でこのチーズをあらゆる角度から活写したいとカメラを向けていたら、ここで重大な事を発見する。当時、筆者はこのチーズも他のハード系の物と同様にプレス装置に掛けられ、あの和太鼓型のチーズが造られるのだろうと訳もなく信じていた。だがこのチーズ工房にはプレス装置らしきものはどこにもないのだ。まずはこのチーズ2個分を作る円錐形の銅鍋に牛乳を満たし、時間をかけて独自な製法でプレスなど必要がない水分の少ないカード塊を作り上げるのである。

⑤:仕上げはスライド式のモールドで和太鼓型に整形される

これを高温のホエイ中で二分し、最初は円筒形の型に詰める。形ができたらこれを写真⑤のような真ん中が膨らんだステンレスの型の枠にはめ込んでロープで締めあげる。しっかりとした形ができたら、外枠を外して熟成室に並べられる。筆者はここで初めてこの偉大なチーズは、プレス装置などは使わずに、あの大きな和太鼓型のチーズができ上る事を理解したのであった。この工場は新しく近代的だったが、チーズ造りの重要な部分は職人の手作業による場面が多かった。

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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