国際酪農連盟(International Dairy Federation: IDF)は毎年世界の酪農・乳業の概況、すなわち、世界の牛乳生産、消費、貿易状況やチーズ、バター、煉乳、粉乳などの生産、消費状況などを発表しています。そこで今回はIDFの報告書から生乳とチーズの概要について抜粋してお知らせします。
世界の生乳生産は前年比1.1%増の9億3,600万トンとなり、年平均増加率(2.1%)を下回りました。その理由として各種生産資材の大幅な値上がりが考えられ、特に飼料費の高騰が響いており、さらに粗飼料の品質が低下し、乳量と乳成分の低下につながりました。
国別の生乳生産量は、1位がインド、2位 アメリカ、3位中国、4位ブラジル、5位ロシアとなっています。ヨーロッパはEU全体ではインドより多いのですが国別ではドイツ、フランス、ポーランドの順となっています(表1)。オセアニアは異常気象、資材価格の高騰、生乳マージンの減少などの要因で大幅に生乳生産が低下し、ニュージーランドは前年比4%の減少、オーストラリアでは5%もの減少となりました。
一方、飲用牛乳生産量は全世界で2.9%増加し、主として中国での増加(前年比21.1%)が大きく牽引しているためです。また、インドでも9.2%と大幅な増加を示しています。
発酵乳は全世界で前年比3.4%の減少となりました。しかし、EUではドイツとスペインの発酵乳生産量が増え僅かな上昇(0.5%)となりました。中国とロシアの生産量は大幅に減少(中国 ▲11.8%、ロシア ▲8.0%)でした。
私たちの関心が高いチーズはどうだったのでしょうか。2022年の世界のチーズ生産量は約2,550万トンです。但し、チーズのダブルカウントを避けるためにプロセスチーズは除外しています。
国別では表2に示すようにアメリカが1位、ドイツ、続いてフランスと続いています。EU全体では前年比0.9%増の9,500千トンであり、アメリカを上回ります。この増加はポーランドの9.1%増、デンマークの2.6%増などが寄与しています。一方、ドイツでは1.3%減、フランスは前年並みでした。また、ヨーロッパ以外ではブラジルとトルコにおける減産が顕著でした。
表2の中で特筆すべきは中国で、前年対比で37%もの増産となっています。日本の生産量はわずか46千トンでしたが、これでも前年比 2%の増産です。
2022年のチーズ輸出量はアメリカ、ニュージーランド、ベラルーシ、ドイツ、オランダの順となっており、輸入量は英国、ロシア、日本、サウジアラビア、アメリカ、韓国、中国の順になっています。日本が輸入しているチーズの殆どはプロセスチーズの原料となっています。
国別の国民一人当たりのチーズ消費量(表3)はデンマークが最高で28.3kg/人で、フランス、キプロス、エストニアと続いています。デンマークでは前年対比5.7%増でした。前年比ではニュージーランドが最高で18.4%の増でした。前年比が最も低かったのはウクライナで23.9%も減少しました。2022年2月に始まったロシアによる侵攻が始まった影響と思われます。
日本は2.5kg/人で、前年度より6.1%減少しました。気候変動やウクライナ紛争の影響で、飼料代が値上がりし、製品価格が値上がりしたためでしょう。国産チーズのレベルはヨーロッパのチーズに引けをとらないほどになりましたが、現在の円安が続くとチーズ価格の高値が続きます。国内乳業メーカーがプロセスチーズ原料を増産し、製品価格を上げないように酪農・乳業界一丸となって取り組む必要があると考えます。
「乳科学 マルド博士のミルク語り」は毎月20日に更新しています。
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