絵本は、こどもの心の成長に大きく影響を与えます。ロングセラーになっている名作であれば、世代をこえた心の共有財産になっているはずです。
今回は、数多ある名作絵本の中からウシが登場するものを紹介しましょう。
『めうしのジャスミン』(ロジャー・デュボアザン作 乾侑美子訳 童話館出版 1996)
『ジャスミン』(さがの弥生訳 童話館出版 2012改訂版)
ロジャー・デュボアザン(1904-1980)はスイス出身、アメリカで活躍した絵本作家です。「かばのベロニカ」、「がちょうのペチューニア」、「ごきげんなライオン」など、動物たちの表情が楽しいシリーズが人気です。
ジャスミンがきれいな羽飾りの帽子をみつけてかぶっていると、農場の動物たち(ペチューニアやベロニカと同じパンプキン農場のメンバーです!)はそれが気になって、笑ったり文句をつけたり真似したり。でもジャスミンはいたってマイペース。同調圧力に負けない、自由な生き方のお話です。
『モーモーまきばのおきゃくさま』(マリー・ホール・エッツ作 山内清子訳 偕成社 1969)
マリー・ホール・エッツ(1895-1984)はアメリカの人気絵本作家です。代表作といえば『もりのなか』で決まりですが、他にも『ペニーさん』『わたしとあそんで』などたくさんの作品がありファンは多いと思います。
春のまきばの草があまりにおいしいので、ウシは友だちを招いてパーティをひらきます。ごちそうは草だけなので、イヌやブタは帰ってしまいました。でも、ウマ、ヤギ、ヒツジはよろこんで草を食べ続けます。喜びを共有できることのしあわせをしみじみ感じます。
『うんがにおちたうし』フィリス・クラシロフスキー作 ピーター・スパイアー絵 みなみもとちか(南本史)訳)
フィリス・クラシロフスキーは翻訳出版された絵本は少ないのですが、アメリカの児童文学作家です。ピーター・スパイアー(「スピア―」と記されることが多い)(1927-2017)は、オランダ生まれでアメリカで活躍したイラストレーターです。スピアーの緻密で正確な水彩画は、いつまでもながめていられる魅力があります。『せかいのひとびと』『雨、あめ』はその極みといえるでしょう。『うんがにおちたうし』は彼の初めての絵本作品でした。
ウシのヘンドリカはオランダの運河沿いの農場にくらしています。うっかり運河に落ち、大きな木箱に乗って流されていくと、ウマのピーターから聞いていたチーズ市場にたどりつきます。チーズ運搬人がかぶる麦わら帽子を食べてごきげんのヘンドリカ、チーズを売りに来ていたおじさんとともにピーターのひく荷車にのせられて農場に帰りました。風車、運河の跳上げ橋、チーズ市場といったオランダの風情をヘンドリカといっしょに楽しむことができます。
絵本の名作の多くは、いま風にいうと「ダイバーシティ」「インクルージョン」「レジリエンス」などを表した教訓と読めなくもありません。しかし、そんなことは考えずに楽しんでながめ、よろこびを感じることが大切なのではないかと思います。