このシリーズを書き始めてからいつの間にやら20年が過ぎ、フト気が付くとこれまで40年余りかけて撮り溜めてきた、フランスを中心としたヨーロッパチーズ関連の写真も底が見えてきた。そこで昔の写真をひっくり返してフト気が付いたのが、フランスのバターの写真だった。
フランスのバターの消費量は日本のそれとは比べるべくもないほど巨大だけれど、写真にするような場面に出会う事はチーズに比べると、とても少ない。だが、パリの下町などで軽食を食べたりすると、小さなバターがついてくる。写真①がそれで、晩秋のパリで旬の生カキが食べたくて小さなビストロで注文した時カキの皿にアルミ箔で包まれたバターが載ってきた。エッ!カキにバター?と思うかも知れないけれど、こちらでは何か料理を頼めば、黙っていてもパンとバターが出てくることが多いので驚くことない。この様にフランス人は、南フランスのオリーヴ油圏を除けば大量にバターを消費している。けれどフランスのスーパーなどにはあまり行かないので、日本のようにカートン入りのバターが並んでいたとしても、チーズなのかバターなのかはすぐには判別でない。だがフランスのバターの消費量は突出しているのである。
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近年のフランスのバター消費量のデーターを見ると、年間一人当たり8.12kgでヨーロッパでは最も多く、2位のデンマークは7.72kg、スイスは4.98kgとなっている。フランスの料理用語に、日本人のシェフ達がいう所のバター・モンテ(Monter au Beurre)という手法がある。これは、シチューなどの仕上げに、火を止めてからバターの塊を投入するといようなやり方である。1960年代にフランス料理界にヌーヴェル・キュイジーヌという新しい料理の手法が登場してくると、これ等の料理には昔ほど大量のバターは使われなくなったという。そんな激動するフランス料理界を事細かに取材し、数々の事例を日本に紹介した宇田川悟という旅行作家がいて、1990年代にはそれを元に多くの著作を残している。その後私はフランス・チーズの旅に出かける時には、この作家の本を読み返しミシュランの赤本(レストランのガイドブック)を買ってから出発した。その宇田川氏の本の中に、当時のフランスの高名な三ツ星レストランのシェフ達が、著者に語ったというバターに関する言葉が書かれている。そんな例を要約して紹介しよう。
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「おいしい料理はバターから生まれる。バターは他の材料では代用できない」。
この言葉は当時の三ツ星レストランのシェフ達の共通した考え方だと書かれている。
「料理の基本はバターだ。良質なバターがあればどこででも美味しいフランス料理が作れる」。
この言葉は、スイスのレストランで初のミシュランの三ツ星を獲得した店のオーナー・シェフ、フレディ・ジラルデが言ったとされている。この本に登場するフランス料理のシェフ達は20世紀後半に活躍した超一流の料理人達で、かつては日本の料理誌などにもたびたび登場した。
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この様に当時は、まだバターは高級なフランス料理にとっても欠かせない素材だったのである。そんなわけで、当時のフランスの市場や見本市などで見つけたバターの姿をお見せしよう。写真②の樽入りのバターはカマンベールの故郷、イジニィ・サント・メール産のA.O.P.指定第一号のバターである。この様な形態のバターは写真③のように店頭では、ピアノ線で切り取って売られている。この店は大量にバター使う料理人達が利用しているようだ。写真④は小売り用のバターを楽しい形に成型する木型で、様々なデザインのものがある。写真⑤は整形したバターを冷水で冷やしている場面。
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