西ヨーロッパを中心にチーズの旅を始めて半世紀たつけれど、チーズを見尽くしたという感じは全くない。チーズ探訪の旅に出るたびに新しいチーズに出会い、この世界の膨大さに唖然とするのです。少し考えてみてください。チーズの原料といえば家畜のミルクですね。しかも、ミルクを貰う家畜といえば、大方は、牛、水牛、山羊、羊などにかぎられている。世界中のチーズのほとんどが、このたった4種類の家畜の乳が原料なのです。しかも、このミルクから、天文学的と呼べるほど多種類のチーズが毎日作られているというのは奇跡としか言いようがないと、ヨーロッパ各国のチーズ売場を見るたび思うのです。
写真①は2019年にフランスの地方都市で開かれた、大規模なチーズ・フェスタのシェーブルの展示場を撮ったものですが、カメラを向けながら、どうしてこんな形に? この色って何なの? チーズで遊んでいるんですか、などといいたくなるのです。当然制作の苦労も多いだろうけれど、やはり創造の楽しさがチーズの表情に出ていますね。
写真②は、パリ盆地の東部にあるナンシーの市場のチーズ売場を撮ったものです。フランスの北部にあるパリ盆地は西の大西洋岸のノルマンディから、東のヴォージュ山脈まで大平原が続いている。チーズって面白いですね。単純に言えば、山で造られるチーズは大型でハード系の物が多く、平原で造られるものはソフトで小型のチーズが多いのです。当然ソフト系の物は形が作りやすいので、面白い形のチーズが多くなる。この町の市場のチーズ売場は広くて長い。端からキッチリと撮影すると、全部で40カットを超える写真が撮れました。なのに、ここでは1点しかお見せできないのは残念です!
写真③もフランスの、地方都市にある公設市場で撮った写真だけれど、どうでしょう、この陳列の仕方は。同じ国でも地方によってこれだけ違うのはちょっとショックでした。それも、南フランスの大都市リオンの市場ですからイメージが違います。この時はホテルと市場が近かったので、市場が開くと同時に市場に入ったのですが、この陳列の仕方を見て、大急ぎでチーズ売場全部の写真を撮った。お客が来てこのきれいに並んだチーズを一個でも購入すれば、そこは写真にならないのです。写真②のナンシーの市場の並べ方ならば、それがないのでゆったりと撮影できたのですが。
さて、写真④のチーズの並べ方はどうでしょう。こんな売り場は初めてです。これはロンドンの中心地にある大きなチーズ専門店のメインの売場です。売場の真ん中に、カットしたハード系のチーズが積み上げてある。イギリスにはこの様なハード系のチーズはないので、これ等はフランスやスイスのチーズと思われます。チーズの中に黒い線がある左端のチーズはフランスのモルビエですね。とも角このチーズの陳列の仕方には驚きました。季節は6月だったけれど、夏も涼しいロンドンだからできるのでしょうね。
写真⑤はある都市の朝市で撮った写真だけれどわかりますか。これはトルコの首都イスタンブールの朝市で撮ったものです。トルコのあるイベリア半島はチーズ発祥の地の一つに数えられているのですが、この市場で売られているチーズの大部分は、写真の様なフレッシュチーズなんですね。写真の下の方にカットしてプラ容器に入れたチーズが並んでいるけれど、これが普通の人が購入していく量なのです。地方都市のスーパにも500gほどにカットされた、このタイプのチーズが大量に陳列されていました。チーズ発祥の地とされるこのアナトリア半島ではヨーロッパ型の熟成チーズはあまり人気が無いようなのです。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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