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フランスには高い山がない。アルプスもピレネーもイタリアやスイスの国境にあるのでフランスの山とは言えないのでは、といえば真面目な人はけっこう考え込む。でも1800mクラスの山塊であればフランスの国内にもあるが、日本ではほとんどは知られていない。フランスの南部のピレネー山脈に近い所にあるマッシフ・サントラル(中央山塊)と呼ぶ山々である。この辺りには昔から人が住まず、今もフランス有数の過疎地になっているようだけれど、ここには世界に知られる有名な村がある。ロックフォール・シュル・スールゾン(Roquefort-Sur-Soulzon)という、チーズファンならば一度は訪れたい村である。名前は長いけれど、この村はご存知、ロックフォールチーズの聖地なのである。
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現在は道路も良くなっていて時間もかからないが、少し前までは山道を長時間バスに乗らなければたどりつけなかった。だが、こうしてたどり着いたこの村ではチーズは作っていない。ここにある岩山の巨大な洞窟を利用してチーズを熟成させているだけなのである。現在はどうなっているか分からないけど、最初に訪れた時は、熟成が終わったチーズはこの洞窟内で包装され、世界に向けて発送されていた。今では洞窟の熟成室の一部がガラスで仕切られ、見学者は熟成中のチーズをガラス越しに眺め、写真を撮り、土産のチーズを買ったらすぐに帰っていく。道中は長いけれど見学の時間はさほどかからないのである。
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話は長くなったが、世界中からこの岩山を訪れるロックフォール・ファンの90%以上の人達は、広い洞窟の中に並べられた熟成中のチーズをガラス越しに眺めて帰っていく。当然このチーズにも製造段階があるが、それを見学するのはちょっと難しい。筆者が最初にこのロックフォール村を訪れたのはもう40年も前の事で、当時は小さな貸し切りバスで七曲りの山道を数時間かけ、この洞窟の中に眠るチーズを見るために訪れたが、21世紀になってから訪れた時には道路事情は格段によくなっていたので、ロックフォール村に入る前に、このチーズを造っている工房を訪ねたのである。普通のチーズ工房の見学であれば、製造の現場と熟成庫を順次見学する事ができるけれど、ロックフォールの熟成場所はこの村にある岩山の洞窟だけなのである。
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では製造工場はどこにあるかといえば、何と今では南フランス一帯に点在しているのである。このチーズの生産量は、ハード系のA.O.P認証のチーズに比べれば当然少ないが、ブルーチーズとしてはフランス国内ではダントツの生産量を誇っている。そこで、このチーズの製造現場をぜひ見たいと思い、3度目のロックフォール詣での時に、原料乳を供給するラコーヌ種の羊の牧場を訪ねて搾乳の写真を撮り、将来ロックフォールになる、グリーンチーズ(熟成前のチーズ)を造っている製造現場を訪ねた。こうして、かれこれ30年かけて、やっと原料を貰う羊の搾乳に始まって、岩山の熟成庫で包装される工程まで写真に収めることができたのである。
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そして、最後のお楽しみは、この洞窟で熟成させた12種類の銘柄の違うロックフォールが食べられるというレストランを探し当て、みなウキウキと入店したけれど、これはけっこうハードなミッションであった。ロックフォールは塩味が強いので、せいぜい5種くらいで味が分からなくなる。これは高くついた昼食だった。チーズの勉強も楽ではありません。
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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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