フロマGのチーズときどき食文化

チーズを生む道具の世界を探る④

2023年7月15日掲載

ソフト系のチーズの形を作る作業
前回は、凝固させたミルクをカード・ナイフでカットし、ホエイを排出して固形物を取り出す方法を説明したけれど、実はこの作業はチーズの種類や大きさによって、様々なやり方があり、お見せできるのはほんの限られたチーズに過ぎないのですが、今回は伝統あるソフト系のチーズ(直径13~19cm)の製造現場を取材した話をします。

① 型入れ直後のマンステール

これはフランス北東部のヴォージュ山脈の尾根筋にある小さな工房で、若奥さんが作るマンステールです。このチーズが生まれたのは7世紀頃で、この山脈に定住した修道士によって造られ現在に伝えられた古いチーズなのです。
早朝、外回りの旦那さんから、若奥さんの工房に搾りたての牛乳が届けられると、すぐにチーズ用の銅釜に入れて温められ、レンネットで凝固させます。これを、ピアノ線を張ったカード・ナイフで荒くカットし、それを写真①のように側面に穴のある筒状の型の中に「ホエイと一緒に」入れていく。するとカードはホエイを放出しながら筒の中に沈んでいくのです。これを手作業で反転を繰り返しながらチーズの形を作っていく。このタイプのチーズはプレスはしません。この様に、この若い主婦の職人はたった一人で、繊細な技術と感性を駆使して毎日この伝統あるチーズを一人で作り続けているのです。

水分を絞り出し堅固な形を作る
大型で硬いチーズといえば山のチーズという答えが返って来そうだけれど山岳地帯の多いスイスでは伝統的に、運送に便利で長持ちするハード系の大型チーズが造られてきました。これ等のチーズはソフト系とはかなり違った作業があります。

② ハード系チーズの型入れ作業

マンステールのようなソフト系のチーズは、ミルクにレンネットを加えて凝固してきたらすぐにホエイと一緒に型入れするけれど、ハード系のチーズは凝乳(カード)を、より細かくカットして、ホエイの温度を上げて、カード内の水分(ホエイ)を排出させ、固く絞まったカードを作ります。そして、これをチーズバットの中に集めて、仮プレスをして大きな塊にする。これを所定のチーズの大きさに切り分け、モールドに詰めて(写真②)プレスし、ホエイをしっかり抜くと共に、目的の大きさのチーズを作っていくのです。

③ 工場のプレス装置

このタイプのチーズは種類が多く、チーズによってプレスの仕方が様々で面白いのです。この様なハード系のチーズは、今でも不便な山岳地帯で昔と同じやり方で造っている所はまだ残っているようです。
話は変わるけれど、次の不思議な写真④はスペインのカナリア諸島のグラン・カナリア島の山中にあるチーズ工房の情景です。この工房にある道具といえばミルクの輸送缶とチーズの形を作る器具だけという衝撃的な状況に驚いたけれど、そんな中でケソ・デ・ギア(Queso de Guia)というD.O.P.造っているというのです。

④ グラン・カナリア島のプレス装置は体重で

まずは、羊乳(混乳もあり)をミルクの輸送缶の中で凝固させてカードを作り、それを腕でかき混ぜてカットするのです。そして、ホエイを排出したカードは木製のプレス装置にセットする。すると、写真のように派手な衣裳の女性が乗っかり、全体重をかけてチーズの形を作っていく。この山中の工房にはおばさんと、2人の女性従業員だけで、1日4個のチーズを造っていました。工房の周りは荒涼とした岩山しか見えませんでした。

⑤ 究極の手造りチーズQueso de Guia (ケソ・デ・ギア)

 

 

 

 

 

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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