チーズとは何か、と問われたらあなたならどう答えるだろうか。
世界のチーズを学んだ人ならば、様々な事柄が頭に浮かんできて、答えに窮するかもしれません。確かにチーズはある意味で不思議な食べ物です。ミルクという白い液体から大きさも形も柔らかさも硬さも、そして味も無限に変化し続ける食品なんて他にあるだろうか。だが、それはそれほど複雑に考えることはありません。チーズとはミルクという液体を凝固させて水分の一部を取ったもの。あるいはそれを細菌や酵素の力で熟成させたもの、といえばいいだろうか。今回はチーズのためにミルクを家畜から頂くための道具から始めて、それをチーズにするための装置や道具などを順次写真で紹介していきます。まずは乳搾りからですね。
搾 乳
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チーズは主として反芻動物の乳から造られるものですが、そのためにまずは家畜として飼われている動物の乳を得なくてはなりません。今は搾乳機が普及しているので機械に任せれば、さほど苦労はないようだけれど、私の育った当時の酪農家は、私の生家を含めて規模が小さく、搾乳はみな手搾りでした。その後、搾乳機が普及するまではけっこう時間がかかったようです。
写真①は北フランスのヒツジの農場での搾乳風景ですがこれは凄い!殺風景な搾乳室に一列に並んでいる羊は50頭、そして、男の人の後ろにも同数のヒツジが向こう向きに並んでいる。従って一度に100頭のヒツジから高性能の機械を駆使して次々と搾乳していくのです。乳牛用の搾乳機は昔からあったけれど、羊乳の搾乳機は日本にはない。羊の乳を利用する文化は日本には育っていないからです。
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写真②は南仏のプロヴァンスのローヴ種という大きなツノを持つ山羊の専用の搾乳機です。この装置には搾乳中に鋭いツノでお互いに傷つけあう事を防ぐ工夫がなされていました。この山羊の乳からはローヴ・デ・ガリッグという60gほどの可愛らしいチーズが造られています。
ミルクの冷却と輸送
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ミルクを加工する設備が整っている大型の牧場や、フェルミエ型の工房でなければ、搾り取られたミルクはすぐに冷却保存されます。我々の時代には輸送缶という専用の牛乳缶に入れて、出荷の時まで小川などの流水に浸して冷やして置きました。それは昔の話だ、という人もいるけれど、この20年間程ヨーロッパ各国の酪農家やチーズ工房などを訪ね歩いた結果、昔、北海道の酪農家でよく見られたミルクの輸送缶がいまだに使われているのです。この道具はミルクを冷水で冷やしながら保存するために細長くできているのです。
ミルクを凝固させる装置:銅釜、チーズ・バット
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近代的なチーズ工房ではステンレスのチーズ・バットを使っているけれど、伝統的なチーズを作っているヨーロッパのチーズ工房では、今でも、古典的な銅釜を使っている所はけっこうありました。それも、驚いたことに昔のように薪を燃やしてミルクを温めているという工房が、スイスの高山の中腹にあるモレーンの丘(氷河が作った台地)にありました。いわゆるアルパージュと呼ばれるチーズでしょうか。
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写真⑤ は現在のチーズ工場でよく使われている細長いステンレス製のチーズ・バットですが、いかがでしょうこの巨大さ。長さは30m以上はありそうでした。これはイギリスのブルー・チーズであるスチルトンの工場で撮ったもの。近くにはこのチーズを有名にした、スチルトン村があります。
「フロマGのときどき食文化」は毎月15日更新しています。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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