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ヨーロッパの英雄といわれる人で、島で生まれ島で亡くなったという人がいる。そう、フランスの皇帝ナポレオンである。生まれは地中海の3番目に大きな島コルシカ島(フランス語ではコルス:Corse)なのだが、この島はイタリア半島の付け根の近くにあり、元は対岸にあるイタリアのジェノヴァ領だった。だが1729年この島に農民の反乱が勃発したのを契機に、以後40年間戦乱が続くが1768年になると、ジェノヴァは統治権の一部を譲渡する代わりにフランスに派兵をもとめた。結果フランス軍は反乱軍を制圧し、コルシカ島は1769年の5月以降フランス領になる。そして、ナポレオンはこの年の8月にフランス領になったコルシカで誕生するのである。だが、後にフランスの皇帝となるナポレオンは、たった6歳でこの島を去るのである。
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コルシカの首都アジャクシオの海辺にある細長い広場の高い位置に大きなナポレオンの像が建っているのだが、その広場では毎日朝市が立ち、地中海の海の幸やこの島で生産される様々な食品が並んでいる。そして、この島のチーズは日傘で日光を覆っただけの粗末な台の上に、そのまま並べられているのである。考えてみれば、これは冷蔵庫がなかった、ずーっと昔の時代からの売り方なので驚く方がおかしいのかも知れない。コルシカは広島県ほどの大きさの島だが、中心部には2千m級の山が5個もあって、山脈がそのまま海に沈んだような島なので平地は少ない。だから牛などの大型の家畜は飼えないからミルクを貰う家畜は山羊や羊という事になる。そんなわけで市場に並んでいるチーズは、大方はこれ等2種類の動物の乳から造られているのだが、不思議なのはその種類の多さである。
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②の写真は屋台の一部を撮ったものだけれど、この中にはざっと数えて8種類ものチーズがある。③の写真はコルシカ島の形をしたチーズで、この島の人達の郷土愛の強さが感じられる。この様に種類は多いが、島を代表するチーズは何かと聞かれてもそれはよくわからない。というと、少しこの島チーズに詳しい人ならば、コルシカにはA.O.P.認証のブロッチュ(Brocciu)があるではないかというかも知れない。けれど、これは元々ホエイから作られたリコッタ(Ricotta)といわれる種類に属するもので、この製品がチーズとしてブロチュの名でA.O.P.を取得するときに、まずは、これははたしてチーズなのか、というような議論があったらしく時間がかかったようだが、めでたくA.O.P.の認証を獲得するのである。
この時の筆者の滞在は短期間だったので、町の市場でBrocciuを探したが確認できなかった。
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ここで、リコッタについて少し考えてみよう。これはイタリアに多い製品で、Ricottaの名は ri (再度) cotta (煮た) という言葉からなっていて、原料を二度加熱したという意味だ。簡単言いうと、チーズを造る時にはまず原料のミルクを一定の温度に加熱し、凝乳剤を加えて乳の蛋白質を凝固させて作るが、その後には大量の水分(ホエイ)が残る。そしてこのホエイの中には凝乳剤では固まらない蛋白質とわずかな脂肪分が残る。このホエイをやや高温で再度加熱凝固させて作るのがリコッタである。イタリアによくある製品だがフランス本土では見た事はない。その理由は、ミルクを凝固させたときにホエイに残留するタンパク質の量にある。牛乳のホエイに残る蛋白質は0.2~0.3%だが、それに対して羊乳は1.1~1.3%と牛乳の3倍以上残るのである。従って羊乳チーズの多いイタリアにリコッタが多いのも理解できるだろう。だがそれでも1%程度の固形分では、とても効率が悪いので、リコッタはホエイに10%程度の生乳を加えて造られているというが、この事はあまり知られていない。
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近頃インターネットのサイトにリコッタの作り方というのが複数載っているが、その製法は牛乳を加熱し酢やレモン汁を加えて固めたものをリコッタと称している。でも、それはリコッタではなくカッテージ・チーズですよ!リコッタの原料は基本的にはチーズを造るときに残るホエイなのである。日本の一般家庭でリコッタを作れるほどのホエイを入手するのは困難です。
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