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モッツァレッラ・ディ・ブーファラ・カンパーナ(Mozzarella di Bufala Campana)というなが~い名前のチーズは、南イタリアで古くから水牛のミルクから造られている貴重なチーズです。けれど、20世紀後半あたりからこのチーズが世界に知られるようになると、普通の牛の乳から同名のチーズが大量に作られるようになる。そこで、イタリアでは牛乳製のものをモッツァレッラ・ディ・ヴァッカ(Vacca=雌牛)と命名し、水牛乳のチーズと区別できるようにするのです。当然、牛乳製の方が生産量は多く値段も安いので生産量は増えていく。現在日本に輸入されているイタリア産のこの手の商品の大方が牛乳製なのです。
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それはいいとして、北欧あたりからくるモッツァレッラと称するチーズが、普通のチーズと同じく四角く切られて店頭に並んでいるけれど、モッツァレッラの面影は全くないのです。そもそもこのチーズの語源は、イタリア語の引きちぎる(Mozzare)という製法からきていて、手作りであれば発酵させたカードを熱湯で溶かし、それを写真②の様にちぎって形を作るのです。
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筆者がこのチーズを最初に食べたのは1990年頃で、場所は南イタリアのカンパニア州でしたか。その時、私はある出版社の取材陣といっしょに、イタリア・チーズの産地を取材して回ったのですが、その中でどうしても見たかったのが、モッツァレッラの手作り工房でした。今ではあり得ない事だけれど、その時はなんと取材スタッフを製造室に入れて撮影を許してくれ、しかも、そこで、出来たての暖かいモッツァレッラを試食させてくれたのでした。その時の感激は今も忘れられない。
水牛乳で造られる本物の商品はMozzarellaの後に乳を提供する動物の名(Bufala)と指定の生産地名のCampanaが加わって冒頭のように長い名前になるのです。
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次はフランス東部の山のチーズです。アルプス山脈に接するこのあたりにはかつてサヴォワ公国という国があったのですが、現在ではサヴォワ県となり地名として残っています。この辺り一帯は東側に4000mクラスのアルプス山脈の峰々が圧倒的な迫力で迫ってくる美しいところなのです。まだ若かった頃、この地方のグルノーブル大学の寮で一夏を過ごしアルプスの谷間を歩き回ったことがあるのですが、その時偶然にもヴァカンス村に迷い込み、草上の食卓で土地の子供たちと昼食を頂いたことがあった。食事の後に、このグループのオジサンが、突然、表面が何やらうす汚れた中型のチーズを取り出して見せ、これはトレ・ボンですといった。そしてオジサンがそのチーズを切り分けると、土壁のような表皮の中から、美しいクリーム色の中身が現れたのです。これは、何というチーズかと尋ねると「Tomme de Savoie」と答えた。私が本格的にフランスチーズをしっかり食べ名前を覚えたのはこの時からでした。
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以来フランスチーズに魅せられ滞在中は、毎日近くの朝市に通ってチーズの写真を撮り、毎晩、同行の仲間を部屋に呼んでチーズ・パーティーをやらかした。当時日本では、国産のカマンベールの全盛時代で、フランスのチーズなどは見た事がなかったので、この町の朝市は宝の山でした。しかし、この時初めて食べたTomme de Savoieというチーズは輸入される事はなかったのか、日本で見ることはできませんでした。同じ仲間のTome des Baugesというチーズは教本にも載っているのですが。
ところで、この地方のアルプス山中や山麓にはTomme あるいはTomeの名を冠したチーズは非常に多く、文芸春秋社の『チーズ図鑑』には、このローヌ=アルプ圏*で生産される14種の牛乳製のトムを紹介していますが、国境を接するイタリアにもトーマ・ピエモンテ―ゼというチーズがあります。そこで、この地方でよく使われる「トム:TommeまたはTome」って何だろう。いろいろ調べても明確な答えは中々見つかりませんでしたが、そんな中で「中形のゴロッとした素朴なチーズの塊のこと」という言葉が気に入りました。
*現在は「オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏」
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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