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ある年の南仏へのチーズの旅はフランス王の生誕の町から始まった。いつもの通り、早朝にパリのシャルル・ド・ゴール空港に到着すると、国内線はすぐに乗り換えである。ピレネー山脈に近いポー(Pau)までは2時間足らずの空の旅である。話はそれるが、日本人にとっては馴染みの薄いポーの町は、17世紀のフランス王室の混乱期にブルボン王朝を創設したアンリ4世の生地なのである。写真①は1993年にポーの町にある城の前に立つ、フランス王アンリの立像を撮ったもので、現在はネットで探してもこのアングルに、なぜか王の立像はない。ちょっと気になるが、ここはフランスの王を語る場ではないので次に進もう。
さて、ポーの空港で予約しておいたミニバスを拾い、バスク地方や南フランスのチーズを訪ね、更にはロックフォールから中央高地を回るという山旅の始まりである。天気も良し、これから一週間余の南フランスのチーズをめぐる旅の始まりかと思うと心がはやった。だが、まずは昼食という事で近くのルルド(Lourdes)という美しい川の畔にある町に案内されたのである。たかだか昼飯になぜ?と思ったが、行って見るとこの町はただ事ではないらしかった。食事をしながらいろいろ訪ねてみる、この町は世界の中のキリスト教の信者にとって特別な聖地なのだという。今回の旅は最初から中々チーズには行きつかないらしい。
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聞くところによるとこの町の成り立ちはこうだ。1858年のある日、この村に住むベルナデッドという貧しい家の少女が川べりの洞窟で聖母マリアと出会う。その後聖母マリアは何度も現れて様々な奇跡を起こしたという。そんな中で、この洞窟から湧き出る泉の水を飲むと病気が治るという奇跡が起こる。そして、今ではこの聖水を求めて世界中から年間500万人もの人が訪れるという。そして今では、この地から流れ出る聖水を持ちかえる人達のために、町の商店にはポリ・タンクが山積みされているのである。そんなわけで、私もこの聖水が湧き出している所へ出かけていって順番待ちをして腹一杯飲んだ。この様に世界中から来た大勢の旅行客でにぎわっているこの川辺の町も少し離れてみると深い緑に囲まれた美しい町なのである。
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さて、その日はピレネーの山奥の源流の宿に泊まり、翌朝早くこの山の尾根筋でヒツジを放牧しオッソー・イラティーを造る若夫婦を訪ねたが、この話は何度か紹介したので、その後、山を下りてから南フランスの平原で、ヤギを飼い新しいチーズを作っているという工房の話をします。だが、そこは新しい工房らしく資料が見つからなかったので、予備知識なしで現場に臨むことになる。その前日の宿泊所は小さいが水辺の美しいホテルで、ホテルの窓から見えるおだやかな流れには野鴨が群れ遊び、はるか南方のピレネー山脈は夕日に縁どられていた。
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翌日、ホテルに近い小さな村で、若い人たちがヤギ乳からこれまでにない新しいチーズ造りに挑戦しているという工房を訪ねた。工房の近くには山羊小屋があって、沢山の黑っぽい毛並みのヤギが、可愛らしい鳴き声を上げている。
熟成庫を見せてもらうと、ヤギ乳で作ったという見た事もない色合いや大きさのチーズが並んでいる。これは試食会が楽しみである。
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見学を終えて試食室に入ると5~6種類ほどの見た事もないチーズが並んでいるのだが、その付け合わせには岩石のような一抱えもありそうな巨大なパンが背後に鎮座している。そんな状況の中で、今回はすべてが初めてみるチーズなので写真を撮るのが忙しく、チーズの味は全く覚えていない。
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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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