毎年2月にパリで開かれる「農業祭」にはこれまで3回ほど行ったが冬のパリは嫌いである。一日中天気が安定せず雪が降ったり、みぞれが落ちてきたりするので出歩くのが億劫になる。それにパリの街路樹はほとんどが落葉樹だから、公園などは冬枯れの樹木に覆われてしまうので、花のパリはどこへやらだ。と云いながらもせっかくのパリだから時間を作って、普段はめったに行かない所へ行く事にした。ここ20年余りはチーズの産地巡りばかりで、パリは乗り継ぎが多くなり、市内へはしばらくご無沙汰していたのである。そこでこの機会に普段には行きそうもない所に行って見る気になった。
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パリの市内の西の端っこに、印象派のクロード・モネの美術館があるが、今回はそこが目当てではない。この美術館の前は三角形の公園になっていて、夏ならば鬱蒼とした森林公園と言う趣きだろうが、冬は木々の葉はすべて枯れ落ちて見通しが良くなっている。その公園には面白い彫像が立っている筈だが、公園は冬枯れで見通しが良くなっていたので、目的の彫像はすぐに見つかった。遠くから見ても5mはありそうな大きな像である。
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近寄って見ると、ロング・ヘアーの大男が立っていて、その足元には、チーズをくわえたカラスと、それを見ているキツネがいるという変な彫刻である。だが、この人物こそイソップ物語を元に多くの寓話を書いた17世紀フランスの詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌなのだ。日本ではほとんどその名は知られていない。
しかし、よく考えてみると、チーズが出てくる偉人の彫刻というのは実に珍しいのだが、これは子供の時に読んだイソップの物語に出てくる話が元になっている。前述の通りこの彫像にはカラスとキツネが出てくるが、話はこうだ。ある日どこからかチーズをくわえたカラスが飛んできて、下にキツネがいる木の枝に止まりチーズを食べようすると、下からキツネが話しかける。「カラスさん、あなたのお姿はいつも見ても本当に美しい!そのうえ歌声も奇麗なんでしょうね。ぜひ聞かせてくださいよ」と誉め言葉を並べると、カラスは気分が良くなって思わず「カァ!」と鳴く。するとチーズはくちばしを離れてキツネの口の中に落ちる、という他愛もない話だが、その後ろに立っている大男がこの話の作者のラ・フォンテーヌなのである。この話は日本の絵本などではカラスがくわえてきたのはチーズではなく肉片だったと書かれている事が多い。そこで、私はパリのある公園にチーズをくわえたカラスの彫刻が存在するという情報を得てその公園を探し、ご覧の写真をゲットしたという訳である。
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さて、目的の一つは難なく達成したので、その後はパリに無数にある路天市場を探索すべくパリの中心に向かって歩き出した。なるべく地下鉄は利用しない。数千年もの歴史が詰まったパリを見ずに闇の中を走るのはもったいないからだ。さてそこで、どこの露店市に行くか。幸い手元にはパリの露店市の場所を図解した地図がある。それによれば、パリ市内には48箇所の定期営業の露店市場があり、これらは、週2回あるいは3回の決まった曜日に店を開く。それを見ながら農業祭の会場に近いモンパルナス駅周辺の幾つかの路上市場を探索した。これまで冬枯れの寒々としたパリを歩いて来たけど、露店市場の野菜や果物の鮮烈な色合いは衝撃的で、冷え切った心が一気に温まる。定番のチーズもあったが、みな清潔な冷蔵ケースの中に並んでいる。
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昔は縁台にワラを敷き、その上にチーズを並べていたが、今は路上市場でもチーズの扱いは普通の店と同様なのである。それと、私が大好きな今が旬の生ガキが番号を付けられて並んでいる。フランスでは生ガキは、大きさによって0から5番まで数字が表示してある。これはカキの大きさを表す番号で、数字が小さいほどサイズが大きい。そうこうしている内に夕方近くなったので、夕食は、たまたま農業祭で出会った同じC.P.A.のAさんと待ち合わせ、モンパルナス駅近くのド派手な海鮮レストランで大西洋の海の幸を賞味したのだった。
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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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