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ヨーロッパ各国で採用されているチーズの「原産地名称保護」制度がきっちり守られているかどうか、今回はイタリアとイギリスのチーズを調べてみました。結果やっぱりというか、イタリアはフランスなどに比べれば大らかですね。首都ローマ圏の看板チーズであるペコリーノ・ロマーノ(Pecorino Romano)は、今やローマがあるラッツオ州では作る所が無くなり、対岸の過疎の島サルデーニャ島で本格的に造られているらしいのです。そこで、地中海最大の島サルデーニャに行ってみました。なるほど、ここは人より羊の方が多そうです。そんな島の北部にある小さな町に近代的なチーズ工場があって、ここでは30kg以上もある大型のペコリーノ・ロマーノを盛大に造っていたのです。教本に載っているペコリーノ・ロマーノの写真はその工場で撮ったもの。でもこれで、このコラムのタイトルが少し怪しくなる。更に驚いたのが同じ工場で、サルデーニャ島のD.O.P.(原産地保護名称)のペコリーノ・サルドやフィオーレ・サルドなども造っているのです。こうなると、純真なチーズ探求者はがっくりするでしょうが、筆者の気持ちは少し楽になりました。
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次に紹介するチーズはイタリアの北部のムラッツァーノ(Mrazzano)という小さな村でおばさん達が造っている村と同名のD.O.P.認証のチーズです。羊乳が主原料の300gほどの可愛らしいチーズですが、ローマ時代からある古いチーズで生産量は極めて少ないようです。従って近隣の人達の口にもなかなか入らない貴重なチーズだそうです。このあたりは、ゆるやかな丘と草原が連なった地形でイタリアにしては緑が濃い。そんな丘の上のアルプス山脈の氷河が見える静かなチーズ工房で、二人のおばさんがこのチーズを造っていました。
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試食の時間には当工房で造られた5種類の作品が出されたが、熟成中のチーズがそのまま出てきたので、一瞬どれが本命のチーズだか解らなかった。だが、チーズには手書きの小さなカードが添えられていて、それによれば、写真の右端の物が本命のムラッツァーノでした。どのチーズも初対面だったけれど、それぞれ個性があって面白かった。写真の上の座蒲団形の奇っ怪なチーズには驚いたけれど、姿の割にはけっこう筆者好みの親しみのある味でした。ヨーロッパではよく見かける、この様な田舎の小さな工房でD.O.P.(原産地名称保護)等の認証のチーズを作っているのは、自社の工房の実力を示し権威をつけるためだと思われる。これ等の認証チーズは原料や製造工程などの規則を厳格に守って作られ、仕上がった製品は厳しく審査される。そのためコストは高くなるけれど、審査に通れば工房の技術的な信用は高まり、その名はイタリアのD.O.P.チーズとしてリストに加えられ、世界中の人がこの小さな村のチーズを知ることができるのです。我々もそのリストを頼りにこの小さな村にやって来たのでした。
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最後は、「世界三大ブルー・チーズ」を取り上げましょう。ご存知ロックフォールにゴルゴンゾーラそしてスチルトンです。それにしてもこれらのチーズを世界三大と決めたのは誰だろう。それはもう「三大だい好き」の日本人に決まっている。日本人は何ら統計学的な根拠もなく、誰かがこれは「世界三大○○」と宣言すると、これが訳もなく通用する不思議な国だ。これは外国人に言ってはいけません。すぐその根拠を問われます。とはいえ上記の三大ブルー・チーズは見事に、村(コミニティ)の名がチーズの名前になっている。この中でスチルトン以外は以前に取り上げているので、ここではイギリスのブルー・チーズであるスチルトンを取り上げよう。
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このチーズの名称はこれまでのように「生産地名」ではなく、このチーズを広めた村の名がチーズ名になったというのが異色なのです。この村はロンドンから北に向かう街道筋にあり1730年頃、この村のBell Innという旅籠屋(はたごや)が近在の農場で造られていたブルー・チーズで旅客をもてなしたところ評判になりロンドンでもスチルトン村のチーズとして知られるようになる。ロックフォールやゴルゴンゾーラ等のチーズ名は生産地名からきているけれど、このチーズの名は消費地というのが異色なのです。
ちょっと気になる事ですが1970年代に翻訳出版された権威あるフランスのチーズ事典には、このチーズはスチルトン村で造られていると書かれているがこれは間違いで、この村にはいまも工場らしきものは見えない道幅の広い街道筋にある村です。市街地の中頃に古い旅籠屋(はたごや)、Bell Innの看板が今もある。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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