ダンチェッカーの草食叢書

第15回 児童書の世界・ヤギ編

2022年10月10日掲載

本好きであっても、大人になると忘れてしまいがちなのが児童書ではないでしょうか。ぼくは、児童書や絵本も読書ジャンルの一つとして楽しんでいます(絵本についてまた機会を改めて紹介しようと思います)。
その児童書の世界から草食獣家畜を扱ったものを紹介してみます。ここでは、主にハードカバーA5判の読み物から選んでいます。

『やぎと少年』(アイザック・B・シンガー作 M・センダック絵 工藤幸雄訳 岩波書店 1979)

『やぎと少年』

ポーランド・ワルシャワ出身のユダヤ人によるおとぎ話集です。
ほとんどの話は村人全員がとんまで粗忽、いわゆる「おろか村」話で、死と生に関する寓話といった趣です。
しかし最後の一編「やぎのズラテー」だけは、アーロン少年が吹雪の中でヤギと心通わせる愛の物語なのです。他のお話との対比がより死生観を際立たせていて、ズラテーがいとおしく感じられます。

 

『白いエプロン白いヤギ』(加藤多一作 国松登絵 偕成社 1976)

『白いエプロン白いヤギ』

日本の児童文学には農家の暮らしを題材にしたものも多く、家畜もよく登場します。
これは北海道滝上町の開拓農家、小学五年生のトオルとオスの仔ヤギの物語です。
きびしい自然と農家の生活、子どもたちの友情・成長と想像力がリアルに描かれています。
終盤になって、タイトルにあるエプロンの白さが亡くなったお母さんと仔ヤギの死のイメージを象徴していることがわかり、涙をさそいます。




『いたずらっ子といたずらヤギ』(ウルズラ・ウェルフェル作 関楠生訳 中島潔絵 学習研究社 1978)

『いたずらっ子といたずらヤギ』

川をはさんだ二つの村はささいなことで仲がわるくなってしまいましたが、いたずらもののヤギが現れたことをきっかけにいつのまにか仲よくなっていきます。奔放なヤギのふるまいと人びとの反応がとても楽しいお話です。
となりあう地域が笑いあって仲よくなるきっかけが、今こそ求められているのではないでしょうか。
ドイツの児童文学で、学研の「新しい世界の童話シリーズ」として紹介されたものです。ぜひ再販してほしいと思います。

 


他にも、ヤギを扱ったものはいろいろありますが、近年は少ないですね。ヤギの活動的で好奇心旺盛な性質はいろいろな事件をまきおこしそうですから、これからも名作が生まれることを願います。