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今回は、まずロワール河畔で造られるユニークな山羊乳チーズを見てみましょう。フランス最長の河、ロワールは、その源流を中央高地に発し、ひたすら北に向かって流れ下る。そして、パリのおよそ100km手前のオルレアンあたりで西に流れを変えて大西洋に向かうのです。ロワール観光の目玉といえば城郭めぐりだけれど、これらの観光地はすべて西に向かって流れ下るロワールの下流域にあるのです。だがこの地方では、お城めぐりだけではもったいない。この流域で産する個性的なワイン、そして何より他では出会えない、ユニークな山羊乳チーズを食べなくちゃいけません。まずはロワール河が西向きに流れを変える直前の丘の上に、サンセールというワインで有名な町があります。その町から葡萄畑に覆われた坂道を西に少し下ると、シャヴィニョルという、どこかで聞いたことがある名の小さな村がある(写真1)。
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そう、この村で造られているのがCrottin de Chavignol=(シャヴィニョルの馬糞:ラルース・チーズ事典訳)という名のチーズなのです。このチーズの和訳についてずい分もめましたね。それはそれとして、このチーズを(写真2)のようにローストした料理が一時パリで流行ったそうですが、これはサンセールのレストランでオードブルに出されたものですが、けっこう食べ応えがありました。
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さて、ロワール河はさらに西に向けて大きくカーブし、オルレアンという町を頂点にし、更に南西に向けて流れ下り、その左岸に広大な平原を作り上げる。そして、このエリアはロワール地方のヤギ乳チーズの宝庫になるのです。そんな中で、チーズ名も長いけれど、その姿形も細長いサント・モール・ド・トゥレーヌというチーズを産する同名の町を訪ねました。初夏の太陽が降り注ぐ中、この町は偶然にもチーズ祭りの真っ最中で、中心地の役場の前には、張りボテの不気味な山羊の像が立っており、広場や路地には着飾った人達で溢れていました。そしてその大勢の人が行き来する広場の中ほどにテーブルを据えて、この町と同名のチーズ、サント・モール・トゥレーヌのコンテストの審査を行っているのです。
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快晴の初夏の太陽が照りつける街中の路地にも様々な出店が並び、町中が湧きたっていました。それにしてもロワール河が大きく南西に進路を変えるその内側の、黄金のトライアングルともいうべきこの平原には、様々な形をした個性的なシェ―ヴルが造られていて、この町はその中心に位置しているのです。
サント・モールの町からさらに南に下ると、写真のように木炭の粉をまぶしたチーズの盛り合わせに出会うのです。細長いのは先ほど紹介したサント・モールで、踏み台型のチーズは前号紹介したヴァランセですが、その奥の丸いチーズが、これから紹介するロワール河支流の畔にある小さな村、セル・シュール・シェールで造られる同名の山羊乳チーズなのです。
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このチーズの姿形は左程ユニークではないけれど、表面に木炭粉がまぶされ、その上にうっすらと白カビが生育している姿を見ると、これら3種のチーズは、産地も近いので「ロワール・チーズの灰かぶり三羽ガラス」といいたくなるのです。なぜ木炭粉をまぶすのかと、現地で何度か質問したが納得のいく答えに出会ったことがない。真っ白な美しいチーズに真っ黒な炭の粉をまぶすのは、筆者には理解できないけれど、この手法はロワール流域の産地でも限られている様です。これより下流で造られるプーリニィ・サン・ピエールやシャビシュー・デュ・ポワトーなどのシェーヴル・チーズには木炭粉は使われておらず、我々にとってはこれらのチーズはとても可愛らしく上品に見えたのです。その後、ヨーロッパのチーズを随分見てきたけれど、真っ黒いお化粧をしたチーズは他では出会ったことがないのです。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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