世界のチーズぶらり旅

大平原の高貴なるチーズを訪ねて

2022年8月1日掲載

1.ポー河が開いた広大な平原

イタリアは二つの島を従え地中海に突き出た長靴型の島だが、山岳・丘陵地帯が多く平野部は全体の20%ほどで、この点は日本に似ているとしている資料もあるが、私にとってこの国は、あらゆる面で驚きに満ちた国である。中でも、北イタリアの大部分を占めていているポー河が開いた大平原は、イタリアチーズの宝庫である。世界に冠たるパルミジャーノ・レッジャーノを筆頭にイタリア固有のチーズが数多く生み出されているが、特にパルミジャーノ・レッジャーノは、堂々としていて、気品があり絶対に真似のできないイタリアの至宝だ。

2.近代工場から次々に生み出されるパルミジャーノ・レッジャーノ

ある資料によれば、2021年にこのチーズは歴史上最高の生産量を記録したという。その量たるや年間409万玉(約163.000トン)だというが、これらの数字はるかに想像を超えたもので、筆者にはコメントし難いが、近頃では年々その生産量が更新され続けているというから、パルミジャーノ・レッジャーノの人気はさらに高まり続けているという事なのである。

3.黙々とチーズの世話をするロボット

そんなわけで、今回はこのチーズの生産現場をのぞいてみよう。ポー河が開いた、北イタリアの広大な平原をバスで走っていると、イタリアの他の地方では見られない草原や畑地が広がっている。やがてその、樹林帯と畑地の向こうにチーズ工場が見えてきた。さっそく案内係に従って中に入ってみると、そこは想像を超える規模の大きな近代工場であった。広い製造室にはお馴染みの三角錐の銅釜が30機ほど並んでいて、一つの釜から2個ずつのチーズが次々に生み出されていく。これまでもいく度かこのパルミジャーノ・レッジャーノの工房を見てきたが、どの工房ものんびりゆったりと、この偉大なチーズをいつくしむ様に育てていたが、この工場では機械化できるところは機械化し、新しい技術によって効率よく品質の高いチーズを生み出しているのである。20世紀の時代までは、熟成庫の高い棚に並べられたチーズも危険を冒して人が管理をしていたようだが、今ではこの危険な作業はロボットが黙々とこなしていた。そして、この広い工場には作業員の数が少ないのに改めて驚かされたのである。

4.熟成業者の巨大な熟成庫

パルミジャーノ・レッジャーノなどグラナ系のチーズには熟成業者がいて、この広い平野で造られるチーズの熟成を専門に行っている所がいくつもある。北イタリアの旅の最後にこの熟成業者の巨大な熟成庫を見学した。まずはその熟成庫に案内されてびっくり。30kgもある、あの大きなチーズの球が、木製の棚に20段も積まれているのである。この光景を見るだけで恐怖を覚えてしまった。地震国日本育ちの筆者はこんな風景に、突如地震の怖さが蘇ってきたのだが、同行の女史たちはみな、わぁすごい!素敵!を連発しながら、高いチーズの壁を見上げながら、試食に供されたチーズを楽しげに賞味していた。考えて見れば、日本人がこの様な歴史あるチーズの巨大な熟成庫を見学できるチャンスは少ないのだから、しっかりと記憶に止めなくちゃと思い直して最適な写真のアングルを探したのであった。

5.すっかり住宅地になったゴルゴンゾーラ村

見学を終えて今夜の宿があるミラノ市に帰る途中に、今やミラノ市に飲み込まれてしまったゴルゴンゾーラ村があるので、案内人にお願いし少し回り道をしてもらった。今やすっかり宅地化してチーズ工房などはないが、道路わきには大きな記念の看板が見えた。かつてこの村は、高原から降りてきた牛達の休憩地点で、その疲れた牛の乳からストラッキーノ(疲れた)・デ・ゴルゴンゾーラとい青かびチーズが誕生したとされる村なのである。
 


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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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