フランスやイタリアなどでは、チーズは古くから生活の中にあったごく日常的な食品で、数百年、時には数千年の歴史を持つものも少なくはないのです。従ってそうした、長い歴史を持つチーズの名前は、生まれた村や町の名が付けられる場合が多いのです。
フランスのA.O.P.チーズを調べて見ると、その大半が主産地の村や町の名がついている。かつて戦乱などで村同士の交流が難しかった時代を通して、チーズはそれぞれの生活の中で作られ独自に進化してきたのです。フランスの「Un Village un Fromage=一村一チーズ」という言葉は、このような状況を示しているのです。今回はそのほんの一部を探ってみましょう。
写真①は、まずは小さな可愛らしい村ですが、ここはフランス有数の過疎地でもある中央高地のライオル(Laguiole)という村です。
広場には立派な牛の像があり、いわずと知れたライオル・チーズの主産地なのですが、普通の人にはライオル・ナイフの方が有名ですね。でもこの村の近くに大きなライオル・チーズの工房(写真②)があるのです。日本でも流行したチーズとポテトで作るアリゴはこの地で生まれたとされています。
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前景に真っ赤なヒナゲシの花を配した美しい村(写真③)は、南フランスにあるバノン(Banon)です。
この村は栗の林に囲まれていて、その林の中にはチーズの工房が点在しているのです。そしてそこでは栗の葉で包んだ山羊乳チーズのバノンを造っているのです。
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写真④は少し古い写真ですが、これはフランス北東部のヴォージュ山脈の東側の谷にあるマンステル(Munster)の町の朝市の風景です。チーズを売っている人(右側)は、この山脈の尾根筋で旦那さんと二人で牛を飼いマンステル・チーズを造っているおばさんです。彼女は市が立つ土曜日には山から下りてきて戸板一枚ほどの屋台を据えてマンステルを始め自作のオリジナルチーズ売るのです。フランスにはまだこの様なところがあるんですね。
最後はちょっと複雑な話です。昔からパリ近郊で造られている大型の白カビチーズにBrie(ブリ、ブリーとも)というのがあるけれど、これまでとは呼び方が少し違います。大方のチーズは産地の名がそのままチーズ名になっている例が多いけど、ブリの場合はチーズ名+産地名になっていて、さらにこのチーズは産地ごとにチーズの大きさが違うのです。最近、生産地なども実情に合わせて拡大されているようだけれど、今回は古い時代の話です。最も大型でメジャーなモー(Meaux)の原産地はパリの東20kmのセーヌ河支流にある同名の大きな町で、2番目に大きいムラン(Melun)の産地はモーの町から南に50kmの所にある。そして、3番目のクロミエ(Coulommiers)の原産地はモーの町から20kmのところにあるという風に、このチーズは生産地によって大きさが違うのです。でも我々日本人にとってブリといえば、大きなモーのブリしか知らない人が大半でしょう。
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特にA.O.P.を取得していないブリ・ド・クロミエは知られていない。クロミエはカマンベールを少し大きくしたようなチーズで、日本のカタログなどでは「ブリ三兄弟」の一つとしているけれど、であれば、このチーズはちゃんとブリ・ド・クロミエとフルネームで呼ばなくてはいけません。以前ブリの工房を何度か見学したけれど、ブリ・ド・モーの生産ラインのわきには、必ず小型のクロミエの生産ラインがありました。そして、写真⑤はクロミエの町の朝市ですがこの町のチーズの屋台には、いわゆるブリ三兄弟が揃っていました。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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