ダンチェッカーの草食叢書

第12回 微生物とともに生きる

2022年4月10日掲載

近年(2012年くらいから)、ヒトと共生する微生物に関する書籍が次々と出版され「マイクロバイオータ」「マイクロバイオーム」(共生する微生物叢やその遺伝子)という言葉を目にするようになりました。
この手の一連の出版は、「除菌抗菌・清潔ブーム」により微生物の多様性が失われることへの危機感から生じたムーブメントなのではないでしょうか。
これは、2000年くらいからの「人類史ブーム」と似ているように思えます。ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』など)やユヴァル・ノア・ハラリ(『サピエンス全史』『ホモ・デウス』など)の著作がロングセラーになっています。人類は危機に直面しているのだ、という意識がこれらのヒットを生んでいるといわれています。

『失われていく、我々の内なる細菌』
『あなたの体は9割が細菌』

微生物本の話に戻ると、やはり翻訳ものを中心にとても多く出ています。
『失われていく、我々の内なる細菌』(マーティン・J・ブレイザー著 山本太郎訳 みすず書房 2015)は衝撃的だったと思います。ピロリ菌を駆除することの影響を例に、抗生物質の濫用に警鐘を鳴らしています。
『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』(アランナ・コリン著 矢野真千子訳 河出書房新社 2016)も同様のテーマですが、特に母から子への菌叢の受け渡しについてドラマチックに語られており、感動的でした。

『土と内臓』
『土・牛・微生物』

デイビッド・モントゴメリーの「土」三部作(『土の文明史』2010、『土と内臓』2016、『土・牛・微生物』2018 いずれも片岡夏実訳 築地書館)は、土と微生物が人類の歴史に大きく影響してきたという壮大な話です。腸と植物の根は同じ、というのはおもしろく納得できる話です。でも「土を回復させよう」というのは、日本でまっとうに農業を営む人々には拍子抜けするような話かもしれません。

最近のもので強く印象に残るのは『家は生態系 あなたは20万種の生き物と暮らしている』(ロブ・ダン著 今西康子訳 白揚社 2021)です。

『家は生態系』

環境の生物が多様であればヒトと共生する微生物叢も多様になり、免疫機能は向上するといいます。ここではチーズが、多様な微生物を含む食品の例として登場します。
考えてみればナチュラルチーズは、伝統的な製法の農家製の製品はもちろん、近代的な工場生産のものであっても、複雑な微生物叢のはたらきによって熟成する食品です。スターターとして加えた微生物だけではなく、必ず環境中の微生物も関与しているのですから。

人類の歴史は疫病との闘いの歴史でもあり、生活衛生環境はこの100年で飛躍的に向上しました。だからこそ、共生する微生物叢を豊かにしておく必要が生じてきたといえます。コロナ禍でマスクやアルコール消毒があたりまえの毎日となれば、なおのことです。
「21世紀は生命科学の時代」だといわれます。「悪玉菌は殺す」というような短絡的な思考ではなく、広く生態系を意識した生活が求められていくことでしょう。