世界のチーズぶらり旅

フランスのチーズ売場をめぐる旅

2022年3月1日掲載

初めてヨーロッパにわたり、フランスの地方都市でチーズの屋台をカメラに収めてから、すでに半世紀を超えた。最初はワインの写真を仕事にしていたがすぐにチーズに転向した。ワインは瓶に入っていればみな同じで、結局入っているビンの写真を撮る事になる。やがて日本にもチーズブームらしきものがやってきてチーズを撮り始めると、チーズの周辺には無限のテーマがある事を知るのである。国によって風土によって様々な家畜が飼われ、そこから湧き出すミルクからそれぞれ変わった形の、大きさの、そして味の異なるチーズが作られていて、それらがすべて、写真屋の言葉でいえば絵になるのだ。

①:クロミエの町の朝市

これまでそんな風景を「ぶらり旅」で紹介し始めてからこの夏で20年になる。このコロナ禍のせいで、もう3年近くも取材に出ていないが、未発表の写真ならば、まだ少しはあるので、少々視点を変えて、今回はチーズ売場にしぼって話を進めていこう。ヨーロッパの朝市などで普通に見られたチーズの屋台は1993年のEU統合以来、衛生状態が厳しく問われるようになり、チーズの陳列がすっかり変わってしまった。統合前は広場にしつらえた写真①のような粗末な縁台の上で盛大に売られているのが普通に見られた。

②:マンステル村の広場で自作のチーズを売る

写真②はフランス北東部のヴォージュ山脈の谷間の村、マンステル(Munster)の広場の朝市の風景である。右手のマダムがヴォージュ山脈の尾根筋で旦那さんと数種類のチーズを作っている若奥さんで、土曜日にはこの村の広場に降りてきて自作のチーズを売るのである。パラソルの下に粗末な木製の台を据えてチーズを売る。何十年も続けてきたと思われるチーズの売り方である。これは1990に撮影したものだが、EU統合後はこの様な光景は見られなくなり、それに代わってチーズの陳列ケースが丸ごと入ったワゴン車にとって代わられるのである。

 ③:シュールな陳列で勝負するパリの露店市

写真③はパリ左岸の大通りで週に2回開かれる路上の市場で2017年に撮ったもの。台の上には細長いチーズケースが据えられ、その中には、チーズが実に美的に芸術的に陳列されていて、通りがかりの人の脚を止めていた。道端の粗末な屋台の上で裸のまま売られていたチーズがここまで進化?したのである。

ここで屋台の売場から離れて地方の大型のチーズ売場を紹介しよう。

④;リオンの市場のシェーヴルの売場

フランスの地方都市には大きな建物の中に様々な商品を売る店が入った市場があり、ミシュランのガイドブック(赤本)の主要な町の地図には必ず載っている。それを目当てにチーズ売場巡りするのだが、大方の店にその地方でつくられる多種類のチーズを揃えており、それもほとんどがチーズの包装紙を取り払って陳列している場合も多いのである。顧客が熟成度合いを見て選ぶ配慮であろう。その陳列方法も洗練されたものも多いが、特筆すべきことは、フランスなどでは、地方によってチーズの品揃えや、陳列方法にそれぞれ個性があるのがとても面白い。今回はスペースの関係で写真は2点しか紹介できないが残念である。写真④は南フランスのリオンにある大きな市場の中のシェーヴルの売場である。どうでしょうこの整然とした陳列の仕方。ここはプロ用の売場のようである。早朝に見学したので、まだ商品の列に乱れはないけれど、これが1日で売れてしまうとは信じられない。

⑤:暖かい陳列のナンシーの市場

写真⑤はフランス北東部の、アール・ヌヴォーの町ナンシーの市場である。規模はリオンに劣らないが、当然ながら品ぞろえが異なるし、リオンの店に比べ陳列の仕方が暖かい。プライスカードも手書きだった。蛇足ながら、この店には写真の何倍ものチーズが並んでいた。取材側としては頭が痛いのは、ハード系のチーズも紹介したいが、チーズが大型なのでカメラのフレームには2、3個しか入らないのが悩みなのである。


■「世界のチーズぶらり旅」は毎月1日に更新しています

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
*禁無断転載