フロマGのチーズときどき食文化

カメラが探ったチーズ造りの現場(4)

2021年9月15日掲載

(4)カードのカッティングとホエイの排出

チーズ製造の最初に行われるカードのカッティングという作業がある。といわれても意味の分からない人も多いでしょうね。この作業はチーズ作りのもっとも初期に行われる重要な作業なのです。前回見てきたように、ミルクにはまず、それぞれの現場で決められた凝固剤を加えて凝固させますが、この凝固したものを「凝乳」といいますが、現場ではカードといっています。

① ピアノ線を張ったカードナイフでカッティング

最初の作業はこのカードから一定量の水分(ホエイ)を滲出(滲みださせる)させるため、ミルクを目的にあった大きさにカットしなくてはならないのです。大まかにいうと柔らかいチーズの場合は、カードを大きめにカットし、硬いチーズの場合は細かくカットするというのが基本です。この様にカードをカットする道具を一般的にはカードナイフと呼ばれていいますが、ヨーロッパには国によっては、あるいはチーズの種類によって様々なカードナイフがあります。それをいくつか紹介しましょう。

② カードナイフをつけた撹拌装置で自動的にカット

でも道具を使わないでカット方法もあるのですが、これはなかなか見ることはできません。
写真①の物は古くから使われているカードナイフで、別名ハープと呼ばれるもので、たてにピアノ線を張った状態が、ハープ(竪琴)に似ているのでこの名があります。これはもう30年前の写真で、フランスやスイスの山中でよく見かけましたが、今では写真②のようにピアノ線を張ったカッターをモーターで回転させ効率よくカードをカットする工房が増えてきました。

③ 鳥籠状のカードナイフを使って

また、カードナイフにもお国柄があるようで、イタリアではスピーノ(写真③)と呼ぶ丸い鳥籠状のものが北部のグラナ系の工房や南部のモッツアレッラの工房でも使われていました。さて、前述の通りカードから排出されるホエイの量や速度はカットされたカードの大きさに影響されますが、その温度にも影響されます。例えば超硬質のパルミジャーの系のチーズは、細かくカットしたカードを攪拌しながらホエイの温度を50℃代まで上昇させカード内の水分を極限まで排出させます。するとカードは固くしまった米粒大になり余分な水分は残らないので、あとはカードをモールド(型)に詰めて整形するだけでプレス機は使いません。

④ ブリのサーベラージュ

一方、カードのカッティング法で面白かったのはブリ(Brie)です。ブリはご存知のように直径35cm前後、厚さ3.5㎝ほどのソフト系のチーズとしては破天荒な大きさですが、作り方もユニークです。まず大きなバケツ状の容器2個をセットとし牛乳を凝固させます。するとサーベルを持った男が現れ、凝固した片方のバケツのカードめがけてエイヤっと切りつける(写真④)。これをサーベラージュといい、凝固したカードに縦に20cm角の切れ目を入れます。そしてもう1コのカットしないバケツのカードと交互にペル・ア・ブリという特殊な道具で薄く削ぎ取って層になるよう型入れしていく。これは大型で壊れやすいソフト系チーズの型崩れを防ぎながら仕上げる知恵なのです。

⑤ 腕を使ってカットしています

これまで見てきたように凝固したミルクの大きさを揃えてカットする事は、カードの水分の含有量を均一にし、出来上がったチーズの品質にムラがなくするための重要な作業なのです。でも、この作業は精巧な道具を使えばすべてよしとはいかない。古くから伝えられてきた技法を採用しているところもまだ残っています。写真⑤を見てください。このおばさん職人の作業をよく見れば両腕を使ってカードをカットしている所なのです。ここはポルトガルの女性職人だけの工房でヤギ乳から柔らかいD.O.P.チーズを作っている工房なのです。この時は衝撃を受けましたが、その後カナリア諸島でも腕を使ったカードのカッティングを見る機会がありましたが、ステンレス製の器具に囲まれた現代の工房の中にも、この様に昔からの手作業の部分が残っているのを見るとなぜかほっとするのです。

 

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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