乳科学 マルド博士のミルク語り

続・麹菌チーズ

2021年8月20日掲載

ジャーン!ついに麹菌チーズが蔵王酪農センターから発売になりました。何故「続」なのでしょうか。
実は2019年6月20日のコラム「乳と麹菌」の中で、東北大学の故中西先生が開発された麹菌チーズが味覚に課題が残り、あと一歩で実用化に至らなかったことを紹介しました。そして、最後に「もう一度麹菌利用チーズに陽が当たることを期待しています」と結びました。あれから2年。ついに発売となったので皆さんに是非ご紹介したくて「続」と付けたわけです。
日本農業新聞(2021年6月18日)によれば、本チーズは農水省の「革新的技術開発・緊急展開事業」を活用し、日本獣医生命科学大学の佐藤 薫教授を中心に、他大学(共立女子大、山梨大学)、農研機構、蔵王酪農センター、樋口松之助商店、八海酒造などの共同研究で2018年から始動した研究の成果です。



すでに召し上がった方もいらっしゃると思いますが、商品名は「蔵」で、100g 1,620円(税込)です。特徴は、酒粕を使うこと、麹菌としてAspergillus oryzae を使っていることなどです。形状はドーナッツ型で、包装には脱酸素剤が添付されています(写真)


作り方はに示すように、基本的には中西先生が開発した方法(2019年6月20日 コラム「乳と麹菌」)とよく似ています。しかし、本チーズの特徴は殺菌乳に酒粕を加え、カードを塩漬した後、麹菌を加え熟成します。熟成条件はノウハウとなっており詳細は不明ですが、30℃以上で一定期間熟成させる工程を含み、製造後10日以降に出荷されます。熟成期間が短い点も大きなメリットの一つです。
酒粕は旨味を強くする働きがあり、その理由は研究中だそうです。形状がドーナッツ型である理由は熟成を均一化するためです。脱酸素剤は熟成中の麹菌の働きを制御するためです。
私が最初に本チーズを食べたのは発売直後に申し込んだものを受け取った翌日でした。さっそく開封して食べましたが、まだ若く、若干酸味があり、組織も酸凝固チーズに特有のぼそぼそ感がありました。その後、C.P.A.事務所で打ち合わせを行った際に、2週間程度経過した「蔵」をいただきましたが、私が食べた時とは全く別物になっていて、旨味が強くなっており、日本酒にぴったりという風味でヨーロッパのチーズとは全く異なったチーズだと感じました。国内にも日本酒でウォッシュしたチーズを試作されている工房さんがいらっしゃると思いますが、麹菌利用チーズは海外には類を見ないまさにジャパン・チーズです。
しかし、課題もあります。第一に価格が高い点です。100gで税込み1,620円ではなかなか手がでないでしょう。さらに、出荷直後から30日間の賞味期限までの間で風味の変化幅が大きく、この幅を緩和し安定化させる必要があります。
まだまだ発展途上かと考えますが、とにかく麹菌を用いた海外に類をみないチーズを商品化した点はすばらしくキュンです。今後さらに発展していくことを期待します。

●蔵王酪農センター 
https://www.zao-cheese.or.jp/zao_natural_cheese/


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