世界のチーズぶらり旅

地中海のヒツジの島へ

2021年4月1日掲載

1.過疎の島の海は荒々しくも美しい

地中海には2つの大きな島がある。最大のシチリア島とやや小さいサルデーニャである。両島の大きさは四国の1.5倍ほど。だがその2島の環境は全く異なっている。イタリア半島の先端部にあるシチリア島を、ある資料は「歴史と情熱、美と破壊、芸術と美食、美しい海浜と火山。そして世界有数の犯罪組織」など、何でもそろっている島だとしている。以前、筆者もこの島を訪れた事があるが、緊張感をもって島を周遊した覚えがある。しかし、それに比べ、イタリア半島の西側にあるサルデーニャ島は過疎化が進み観光客の興味を引くものはほとんどない。そこがいいのだという人もいるだろうが、特に極東から1日かけて飛んでくる観光客にとっては、この島には目玉になるものが見当たらないという。しかし、イタリアの羊乳製チーズを知りたければぜひ訪れてみたい島なのである。

2.至る所にヒツジの群れが

そんなわけで、ある年のヨーロッパチーズ探訪の旅にサルデーニャ島を含む日程が組まれたのである。だがイタリア大好きの旅行者でもこの島がどんな島なのか、見るべきものは何なのか知る人は少ない。筆者もこの島の数種類のチーズの名は知ってはいたが、他の知識はゼロに近い。そこで、かなり分厚いイタリアの案内書のサルデーニャの項を見ると、トップの話題はヌラーゲという古代の要塞の遺跡の解説である。しかも、この島には7000ヵ所もあると書かれているが、要塞には用はない。それよりこの島はヒツジの島なのだ。何しろ人口は160万人だがヒツジは290万頭、イタリアで飼われているヒツジの4分の1がこの島で飼われているというから羊乳製のチーズ探訪には欠かせない島なのである。

3.奇ッ怪なチーズ盛り合わせ

東京からローマに飛び、そこから国内線でサルデーニャの南端の町カリアリに飛ぶ。この町はサルデーニャ島の南端にある最大の都市でこの島縦断の出発点となる。

チーズの旅は朝が早い。朝食が済むとただちに出発だ。街を出ると島を縦断する幹線道路を北上。走り出すとまもなくヒツジ様のお通りだ。そして次は崩れた古代遺跡のヌラーゲが見える。この島はこれらを避けて通れない。チーズ工房は北部に集中しているので、島の中頃のホテルで早めの昼食を取るべくレストランに入る。すると、いきなり4種類の奇っ怪なチーズが乗っかったプレートのお出迎えだ。最初に眼に飛び込んできた、白いイモムシ状のチーズは、Pasta Filataの名で売られているのを市場で見かけた。そして表皮の黒いのが燻製したFiore Sardoか。その他のチーズは分からない。真ん中の薄焼き煎餅状のものはパーネ・カラザウといいこの島に古代からあるヒツジ飼いパンだという。

4.チーズ工場の売店に並ぶ羊乳製のチーズ

昼食を終えてさらに北上するとまもなく、小さな町の中にかなり大規模なチーズ工場が見えた。ここではこの島のD.O.P.(原産地名称保護)認定のチーズ3種の他、様々なチーズを作っているらしく、売店には10種類以上の見た事もないチーズが並んでいた。そして、ここではペコリーノ・ロマーノ (Pecorino Romano)をも大量に生産している。ヨーロッパの「原産地名称保護制度」の精神からすればこれは違反なのだろうが、そこはイタリアである。ロマーノの名称保護地域のラッツィオ州には首都ローマがあり、時代と共に都市化が進んでヒツジを飼いチーズを生産する環境が失われて行く。そこで対岸のサルデーニャ島に生産拠点が移っていったのだという。だがこの過疎の島からすれば、世界に販路を持つ最大の羊乳製のチーズ、ペコリーノ・ロマーノを作る方が島の経済ためになるのである。

5.島で作られる大量のペコリーノ・ロマーノ


 

 

 

 

 


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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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