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日本に最初にやって来たヨーロッパ人は、ポルトガル人で彼らが漂着した種子島に鉄砲を伝えたという話は学校で習った。以来ポルトガルとは南蛮貿易とやらで日本に様々な文物をもたらす。パン、カステラ、キャラメル、コンペトウ、テンプラなど多くの食品や生活用品に、ポルトガル語由来の言葉が残っているが、これ等を見るにつけ、鉄砲という物騒なものを伝えたポルトガル人は穏やかな民族だったことが伺える。
現在のポルトガル人も自国の多くの言葉が日本語になっている事を知っていて、アリガトウもポルトガル語由来と信じているらしい。ポルトガル語でありがとうはオブリガード(Obrigado)というが似ていなくもない。この様にかつては親しい国だったポルトガルも、近代になってからは遠い国になってしまった。筆者の記憶に残っているのは、女優の檀ふみさんの父親で作家の檀一雄氏が、リスボン近郊の漁村で小説を書きながら滞在記も残している。そこにはポルトガルの人たちは、騒がしい隣国のスペイン人と比べ穏やかな人達が多いと書いている。あれから半世紀後、この国に降り立ってみてやっとそのことを実感させられたのであった。
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古い酒飲みは甘口のポート・ワイン(ポルト酒)はポルトガル産のワインであることをよく知っていたが、やがて国産の安いまがい物に負けてしまう。それではチーズはどうかといえば、これはもう悲惨といっていい。ポルトガルチーズに関する情報は入ってこないしチーズを入手するのは更に難しい。やはりこれは出かけるしかない。というわけで、ポルトガル縦断チーズの旅に上ったのである。
ポルトガルはユーラシア大陸の最西端にある国で、南北に500kmほどの長方形の国で西側は大西洋に面している。型どおり南部の大都市リスボンを起点にチーズ工房を訪ねながら北上する。リスボンの東100kmのところにエヴォラ(Evora)というローマ時代に作られた古い町がある。その周辺で作られている町の名前と同じチーズを目指して車を走らせる。ポルトガル南部は高い山もなく緩やかな起伏の車道の両側にはコルク樫やオリーヴの林が見え隠れし、牧草地には羊や山羊が放たれている。
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まもなく城壁に囲まれたエヴォラの町に到着。この古い町は直径せいぜい1kmの城壁の中に白壁に赤い瓦を載せた家がぎっしりと詰まっていて、大きな教会はもとより大学まであるのだ。しかし、道は狭すぎて車が入れないので、歩き回るには絶好の町である。実はこの町は日本とは深い関係がある。1584年に例の「天正遣欧少年使節団」の一行がこの町に滞在し、その中の一人がこの町の聖堂でパイプオルガンを弾いたというのである。
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翌日は朝から近くの中堅のチーズ工房を訪れた。まだ新しそうな工房の中に入るとビックリ。なんとチーズ作りの技術者はもとより、従業員も女性なのだ。それも結構お年の人が多い。ポール・キンステッドの『チーズと文明:築地書館』によれば中世のヨーロッパではチーズ作りは女性の仕事だったそうで、その伝統は今でも残っているようだが、この工房のようにすべてが女性というのも初めてだった。かなり広いこの工房は清潔で新しそうだが、機械らしいものは見当たらない。カードの型詰めも加塩も手作業である。中には80歳ぐらいと思われる女性が真っ白な作業着をキリリと着こなしてカードの型詰め作業をしていた。あまりのりりしさに、シャッターを何度も押した。
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見学が終わると型どおり試食が行われたが、もともとポルトガルチーズの知識がないので、いろいろ食べてみても何がなにやら分からない。そして、市場に出かけて適当に買った小型のチーズが、鰹節も負けるほどの硬さで歯が立たず、とうとう食べることができなかった。
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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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